土地を媒介にしてひとびとがつながる~山田祐紀先生にインタビュー!

人文学部1年の佐藤、関口です。今回は「新任教員インタビュー」として民俗学を専門にする山田祐紀先生にお話を伺いました。

先生は自身の研究である「割地慣行」のことから「民俗学」とは何かということまで幅広く語ってくださいました。先生が新潟大学出身ということで、実習や授業の様子など二年次のプログラム選択の際にとても参考になるお話ばかりでした。また、最後には大学生として四年間過ごすうえでのアドバイスもくださり、貴重な機会となりました。

  • 日時:2025年6月16日(月)10:30~11:30
  • 場所:総合教育研究棟A410
  • インタビュアー:佐藤史菜(1年)・関口雄拓(1年)・東海林真央(3年)
  • インタビュイー:山田祐紀先生(民俗学)
  • 記事作成:佐藤史菜・関口雄拓(編集、校閲:東海林真央)

ご来歴〜実務を経て憧れの研究の道へ

東海林:はじめに、先生のご経歴について教えてください

先生:実は、新潟大学人文学部の民俗学研究室の出身です。人文学部の、当時の地域文化課程というところに入学しました。そのあとは、大学院に進学して修士を出て、一度は就職しようと悩んだのですが、研究への道が諦められなかったので博士課程に進学し、在学中に長岡市の学芸員として就職しました。

休学をめいっぱい使いながらも、日々の業務に追われてしまい、大学院修了を諦めてしまおうか、と悩んだこともありました。当時の指導教員の方々や家族への相談、励ましによって、五年遅れで博士論文を出して博士課程を修了することができました。同じ頃に転職し、今年の3月末まで新潟市歴史博物館みなとぴあで学芸員をしていました。ご縁があって、4月から人文学部に着任しています。

研究内容〜土地から読み解く村の営み

東海林:次に、先生の研究分野について教えてください。

先生: はい。私は、民俗学の中でも日本を舞台にした日本民俗学を専門にしています。特に、村の中における土地に関わる慣行、習慣を研究してきました。フィールドは主に新潟県内です。例えば、私たちの土地に対する認識というのは、個人の持ち物として、それを示す境界が引かれていますよね。

そういった認識が現在だと一般的ですが、かつての村の土地というのは、「村の土地は村の土地だ」ということで、村の構成員たちみんなが共同で管理や利用をしていたというところが結構あったのですね。

それはなぜかというと、さまざまな要因が考えられますが、例えば新潟の場合だと、河川や潟などの水辺が多く、地域によっては水害が発生しますよね。そうしたところで、河川や潟が氾濫して、田んぼや畑などの耕地に水がかぶってしまうと、作物の収穫ができなくなるわけです。

そうなってしまった場合、耕地が現在のように個人のものだと、その受けた被害は完全に個人のものとなってしまうわけですが、「村の土地全体は村のものだ」という認識の下では、村として復旧作業をしたりだとか、収穫物を元に年貢や税金が納められないとなった時に、村の中で助け合って、年貢や税金を納めたりすることができるわけです。

私が研究している「割地慣行」は、こうした認識の下に、耕作地を数年から数十年に一度、くじ引きなどで割り替える、という土地慣行です。くじ引きで耕作地が交換されるということは、今日まで頑張って耕した田んぼや畑が、明日からは違う人に割り当てられる、ということです。自分だったら、せっかく頑張って耕したのに…と思ってしまいますね(笑)

このように土地が共同で管理・利用をされていたのですが、やはりその中には権利とそれにともなう義務、村の中に階層制というものがあったということも重要です。この家は旦那様と呼ばれていたり、あるいは小作人の家だったり、そういった階層制に関わるような権利の数、あるいはそれに伴う義務が発生するということです。

耕作地に関わらないところでも、例えば道を維持管理するための作業員を権利の数に応じて出さなければいけない。この家は権利を多く持っているから二人で、この家は権利が少ないから一人でいい、というように、権利には義務も生じてくるわけです。

その中には単純には割り切れない人々の感情もあって、村の会議などでは、権利の所持数によって意見が通りやすい家やそうでない家がある、ということもあります。その中で生きていくということを選択してきた人びとが土地を媒介にしてどのようにつながっているのだろうということを研究しています。

東海林:ルールや義務がある中で共助、共に助け合うみたいな仕組みが作られていたということなのですね。五十年前とかだと、自分のおじいちゃんくらいの世代も、その世代に入ると思うと、意外とそんなに昔の話じゃないんだなっていうのがすこし新鮮に感じます。

先生はずっと新潟で研究を続けてらっしゃるということですが、新潟は民俗学を専攻、研究していく上で何か特徴的なところだったり、魅力みたいな部分はあったりしますか?

先生: そうですね。いいところがたくさんあって、いわゆる昔ながらの農村や漁村といったさまざまな生業で成り立っていた村のすがたやその変化が追えるところだったり、そうしたかつての村の中に新興住宅地や商工業を担う地域が入り混じっていたりして、くらしに根差す課題や疑問を発見し、研究していく民俗学のフィールドとしては、興味関心をそそられるさまざまな事象にふれることができる、恵まれた環境であると感じています。

東海林:私は、地理学を専攻しているのですが、地理学も同様に実習に行って、現地調査して報告書をまとめるみたいなルーティンが一年で行われているので、しかも新潟が自然いっぱいな感じがしますよね。それで民俗学のやりやすさというのと何か隣接する部分があるかなっていうふうに思ったのですけれど、具体的にどういった手法で研究を行われているのですか?

先生:  民俗学に限らず、社会学や文化人類学などの隣接諸学問と同じく、やはりフィールドワークが主になります。民俗学ではそれを「聞き書き」といって、いわゆるインタビュー調査のことですね。

現地の人たちに話を聞くことによって、彼らが何を考えているのか、生の声から分析をするということが主にはなってくるのですが、私自身の研究では、どうしても言葉だけではわからないところもたくさんあります。

例えば村に残っているような古文書や、耕作地の話になると行政も関係してきますから、行政側の資料も見ていく必要があります。公文書館に通ったり、村の文書を記録させてもらったり、そうした史資料から拾うことのできた情報を元に耕地面積を計算してみたり。使えるものは全て使うというような、貪欲さが必要かなと思っています 。

学生時代〜誠実に研究と向き合った日々

東海林:先生の学生時代について教えてください。

先生:新潟大学でずっと学んできたわけですが、そこそこ真面目だったと思います。幼いころに家族と訪れたある自然系博物館で、学芸員の方とお話させていただく機会があったことをきっかけに、学芸員という職業に魅力を感じるようになりました。学芸員になるには学芸員資格が必要ということが分かり、新潟大学ではそれが履修可能という偶然も重なったのですね。

また、学芸員は生涯学習の場である博物館・資料館で、市民の方々の学びをサポートする役割を担っていることを履修の中で知ったので、学芸員資格だけでは足りないと思い、高校の教員の免許を持っています。中学校の免許も取りたかったのですが、分身する必要があるほど(笑)単位がかなり多かったために諦めました。

そういった資格を取ることもあってそれなりに真面目に過ごした大学時代だったと思います。ただ、大学での学びは高校までのものとは違う、ということに戸惑いを覚えた時期でもあったというように思います。テストで出るような問題の解き方を覚えて解答を導くものではないのですよね。

そうした大学での学び、学問の裾野にふれるとは、ということを、自分のものにするまでに時間がかかった印象です。大学1年生の後期にある、人文学部の先生方がオムニバス形式で行う講義での、後に指導教員となる先生の講義が民俗学を専攻することとなったきっかけでした。

二年生からは毎年調査実習に行き、主に実習費用を稼ぐためにアルバイトを合間に入れる目まぐるしい日々を過ごしました。実習はダメ元で玄関の戸をノックして地域の方々にお話を聞かせてもらうという、ある意味スパルタのようなこと(今思い返せば、先生方は事前にきちんと地域の方々へお話を通してくださっていて、拙い学生の調査に協力してくださった地域の方々へは感謝しきれませんが)を経験させていただいたおかげで、ものすごく引き込まれました。

東海林:その実習というのは、事前にみんなテーマを決めてからその地域に向かうということですか。

先生:そうです。新潟大学の民俗学研究室では、調査実習で毎年一つ調査地を定めて、学生たちが調査をして調査報告書を一冊出す活動をしています。

今年は新潟市北区の松浜というところに行きます。全国の大学でやっているところはあまりないのですが、一つの地域に入ってその地域の成り立ち、組織、家族親族関係、衣食住、儀礼といった、くらしをあらゆる側面から調査する方法で実施しています。

学生は自分の興味関心に沿って、何人かずつ調査項目ごとに割り振られた上で調査に赴くわけです。地域の郷土史などを参考にしながら、事前調査を1学期かけて行い、夏と冬の年二回にわたる調査で得た情報を精査した上で、一冊の報告書にまとめて刊行しています。民俗学研究室は昨年度で30周年を迎え、現在は30冊の報告書が刊行されています。

メッセージ〜挑戦が人生を豊かにする

東海林:最後に先生から民俗学に興味のある学生、人文学部全体の学生に向けてメッセージがあればお願いいたします。

先生:先ほど申し上げたように高校までの勉強と大学からの学問、学びは違うというところです。

テストに出てくる問題の解き方を覚えたりするだけではなくて、大学での学びはまず自分で興味関心や課題を見つけなければいけないということです。大学生活の中で、興味のあるものを見つけてほしい。

そこから、世間一般でその興味のある事象がどのような位置づけにあるのか、自身の考え方や感じ方とのギャップはどうか、とかに意識を向けてほしい。いろいろな人と関わりながら、アンテナを張って、そういったことを見据えながら日々を大切に生活していただければと思います。

東海林:大学生活の学びで全てを受け入れるっていうよりは、色んな経験をしてちゃんと自分の中で問いを持ちながら生活していくのが大事なんだなっていう風に感じました。

先生:ありがとうございます。さまざまな情報があふれている時代でもあって、他者を傷つけたり、自身が傷つけられたりということが起きやすい世の中になってきていますが、そうした状況に自身が直面した時に思い詰めすぎず、広い視野を持って、目の前で起きていることは何なのか、なぜそうしたことが起こるのか、といったように少し距離を置いて捉えることができると、楽になることもあるのではないかなと思います。

これは、民俗学に限らず人文学全体での学びで共通することでもあるのではないかと考えます。

何か人生で生きづらいと感じた時に自分をしっかり理解することができているというのは、そうした状況下での生きる力になると思うので、そういったところを4年間で養っていってもらいたい。

アルバイトをたくさんしたっていいし、サークルに所属したっていいし、たくさんの講義を受講してもいい。留学したって、資格を取ったっていい。

自分が合っていると思うやり方で、やりたいことに挑戦をして、長い人生を豊かにする為の4年間を充実させてほしいと思います。

東海林、関口、佐藤:本日はたくさん貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。

●山田 祐紀(やまだ ゆうき)先生
・専門:民俗学、博物館学
・所属:人文学部 社会文化学プログラム

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