英語学の島守です。新コーナー「ゼミ訪問」では、新潟大学人文学部のゼミを紹介していきます。初回は、言語文化学プログラムの英米言語文化分野のうち、アメリカ文学を主題にする平野幸彦先生のゼミを紹介します。高等学校までの英語科の授業でアメリカ文学のテクストを取り扱うことは少ないと思います。単に英文を読むことにとどまらず、議論を重ねながら、あらゆる視点でテクストを分析するので、初めてアメリカ文学を学ぶ人でも足を踏み入れやすいと感じました。
そもそも「ゼミ」とは?
「ゼミ」とは「ゼミナール」の略称です。seminarという表記で、英語読みで「セミナー」、ドイツ語読みで「ゼミナール」です。『日本国語大辞典』の定義によれば、以下のように示されています。
大学における演習形式の授業。あるテーマを設定し、それに関する学生の発表や討論などを中心とするもの。また、そこに出席する学生、教官で構成される大学の学科内の集団。ゼミ。セミナー。
『日本国語大辞典』ゼミナール〔名〕
つまり、教員が学生・生徒に対して講義(lecture)をする形式ではなく、学生と教員があるテーマに関して発表や議論を行いながら学ぶスタイルです。新潟大学人文学部では、分野別のゼミを「発展演習」と呼び、3年次以上の学生が履修できます(ほかには、1年次の初年次演習、2年次の基礎演習、さらには、表現プロジェクト演習も開講されています)。
という、形式的な説明でもイメージするのは容易ではないかもしれません。実際の授業風景や受講者の声を取り入れながら、専門分野での学びを深堀していきたいと思います。人文学部に興味のある高校生だけでなく、ゼミ選択を行う在学生にも役立てば幸いです。
ホイットマン詩集を読む
「ゼミといえば、大きい本を買って、講読していくことをイメージするかもしれませんが……」という言葉で授業が始まりました。実際は、毎回の読む分量は少なく、しかし丁寧に進めているようです。人文学部の中でも少人数のゼミなので、毎回参加者が発言する機会が十分にあることも特徴です。
アメリカ文学をテーマに、学生が調査・分析・考察した結果を口頭発表し、それについて出席者全員でディスカッションを行なっています。具体的には、19世紀のアメリカの詩人Walt Whitmanの詩集を英語で読み、文学作品を形式・内容の両面から適切に分析することに取り組んでいます。
まずは、テクストを文法・構文・語彙を丁寧に確認しながら、学生が解釈を発表します。不明な点は、他の学生の意見を取り入れながら、文学テクストならではの読解や想像力・問題発見能力を磨いてゆきます。使用しているテキストは対訳付きですが、先入観に囚われず、原文に対して忠実に向き合う姿勢が求められます。
今回の授業で扱っていたテクストでは「関係詞節内の動詞はcomeなのに、なぜ関係代名詞whomが用いられているのか…」という疑問が挙がりました。それに対して、別の学生が考えを共有しています。必ず答えが見つかるとは限りませんが、じっくり考え、意見交換することが、テクストの意味や作者の意図へのイメージを具現化することにつながります。
履修上の要件について尋ねたところ、「大学入試レベルの英語運用能力、とりわけ正確緻密な英文解釈に求められる知識とテクストに誠実に向かい合う姿勢を身につけていればOKです」。高等学校までに積み重ねてきた英文読解力を活かして、アメリカ文学の世界を探究できますね。
担当の平野幸彦先生より
「文系の研究も、理系のそれと同様、偏見に惑わされない観察・分析や合理的な議論を行うといった基本的な方法論や、人間を含むこの世界をより正しく、より深く理解するという究極的な目標は変わりません。どうか目先の利益に囚われず、ご自分の個性や志向に合った分野を選択していただければと願う次第です。」
「文学を始めとする芸術を(ただ愉しむのではなく)学ぶ意義は、古今東西、異なる時空に生を享けた人々の想像力が生み出した多種多様な作品から、21世紀の日本という特殊な環境に暮らす我々固有の問題や、あるいは人間存在に普遍的なテーマを考えるための手がかりを得ることにあると思います。皆さんも、この汲めども尽くせぬ叡智の泉を、比較的時間に余裕のある生徒・学生という立場を活かして、思う存分探ってみませんか。」
受講者に訊いてみました
➤ このゼミを選択したのはなぜですか?
- アメリカ文学に興味があったため
- 平野先生の作品の読みが好きだったから
- 元々英詩に対して個人的に関心があり、また所属プログラムとは全く異なるプログラムにおける活動に対しても興味を持っていたため
高等学校までの授業でアメリカ文学のテクストに触れる機会はなかなかないので、新たな発見が多いと思います。英語で書かれたテクストを読解・解釈する練習にもなります。
➤ このゼミで、どのようなことを学んでいますか?(学修の取り組み方や困難、雰囲気など)
- この授業を通して、特定の部分に着目するだけではなく、全体を俯瞰できる一貫した考察を心がけるようになった
- 自由に発言できる授業であるため、気兼ねなく議論に参加でき、深い理解を求めることが出来ます
- 様々なことを総合的に調べながら最適な訳を探していくというのは大変な作業ではありますが、先人の解釈に囚われることなく相互に意見を出し合いより良い解釈を創出していくというのは、困難以上の新しい学びを私に与えてくれたと感じています
テキストには対訳が付属しています。対訳はあくまで、日本語だけを読んでも読者が理解できるように書かれています。しかし、テクストを分析するという点では、生のテクストを読むことから始まります。最初は難しさを感じていたようですが、徐々に慣れてきているようです。
➤ 今後はどのようなことを学んでいきたいですか?将来の展望などもお聞かせください。
- 今後も引き続き、英詩の読解を通して作品が持つ背景や作者自身への理解を深めていきたいと考えています
- 卒論では、アメリカのハードボイルド小説を取り扱おうと考えている
- 今まで読んだことのあるアメリカ文学はまだ少ないので、まずは日本語でもいいので多くの作品を読んで知識の幅を広げたいと思っています
ゼミで習得した英文読解力や文学研究の視点を他の作品でも汎用していこうと考えていることが伺えます。会得した語彙や文法理解は勿論、歴史的理解や議論の経験なども、今後の人生において大いに役立っていくことだろうと思います。