Bonjour! みなさんこんにちは!お久しぶりです。社会文化学プログラム(文化人類学)4年の久須美諒典です。

1年前フランス・ナントで生活していたことが、遠い昔の思い出のように懐かしく感じる今日この頃…。今年1月に帰国し、ナント大学で取得した単位は無事、すべて新潟大学の単位と互換されました。春から4年生になり、もう日本の生活にも、新潟大学での日常にもすっかり慣れ、おだやかな日々を過ごしています。
今回から2回にわたり「留学をふりかえって、いま思うことこと」と題して書き記し、私の連載を締めくくりたいと思います。拙い文章ではありますが、ゆったりとお付き合いいただけたら嬉しいです。 C’est parti!!
私がフランスを選んだ理由
片田舎の小さな造り酒屋を代々営む家に生まれた私。昔フランスでワインづくりを学んでいた祖父と父から、フランスでのさまざまなエピソードを聞いているうちに、いつしか「フランス」という国や、フランス文化に関心を寄せるようになっていました。
大学1年生で、初修外国語としてフランス語を選択して学習しているうちに、「フランス語」という言語にも興味を持つようになり、2年生でも副専攻(マイナープログラム)取得を目指して引き続き学んでいました。その中で、日本人とフランス人の学生が共修する講義でナント大学からの交換留学生たちと出会い、そこではじめて「ナント」や「留学」を身近に感じるようになり、気づけば交換留学に応募していました。
もともと留学に多少の興味はあったものの、まさか自分が長期でフランスに留学することになるなんて…!本当に、新たな出会いが生んだ縁だったように思います。


1セメスターでも実感できた語学力の成長
留学開始まで、新潟大学でいろいろなフランス語の授業を履修して留学に備えていたのですが、いざフランスに着いてみたら…「あっ、全然わかんない…!!」
街にあふれている文字も、人びとの会話も。最初のころは大学の授業ですら、ゆっくりと丁寧に発音してくれているはずの先生の言葉も、同じレベルにいるはずのクラスメイトたちの言葉も、さっぱりわかりませんでした。時々自分の知っている単語に遭遇しただけで、とっても嬉しくなっちゃうような、そんな状態…(笑)。残念なことに、何年間も学校で学んできたはずの英語で意思疎通を図ろうとしても、あまり結果は変わりませんでした。
幸い、一緒に行った英語の得意な新大生が同じクラスだったので、最初のうちは英語―日本語で翻訳をお願いし、なんとかコミュニケーションをとっていたほど。「自分の英語力は頼りにならなそうだし、せっかくフランスに来ているんだから、『日本語の次に使える言語がフランス語』になっちゃうくらい頑張ってみよう!」と心に決めました。

留学期間の半分を過ぎたころから状況が少しずつ変わり始めました。先生や友人たちの言葉が分かるようになり、会話で自分が発言できるチャンスも増え…。11月に書道の個展(詳細はナント日記#1.2をご覧ください)を開いた時には、クラスメイトたちを前に、拙いながらもちゃんと自分の書についてプレゼンできるようになっていました。「すごくよく話せるようになって素晴らしかったよ!」と涙ぐんで褒めてくれた先生や、「日本ってすごいんだね!」と日本に興味をもってくれた世界各国のクラスメイトたちに励まされ、自信をつけてからはさらにフランス語の上達が早くなったように思います。
授業が終わるころには、クラスメイトたちとの昼食会に出かけ、日常会話レベルでおしゃべりしながらランチを楽しめるくらいになっていました。帰りの飛行機では、隣に座ったフランス人男性と、機内食を食べながらフランス語で会話を楽しむことができたのも良い思い出です。

4か月半。今振り返ってみると決して長くはない期間だったかもしれませんが、それでもフランス語の運用能力を十分に伸ばすことができ、大満足です。
フランスでの「日本」
フランスには、日本に興味を持っている人がたくさんいます。特にナントは、新潟と姉妹都市の協定を結んでいることもあってか、日本に対して好意的な人が多いように感じました。
大学内のカフェで、レジの店員さんに出身を尋ねられ、日本と答えると「日本の漫画やアニメが大好きです!」と話してくれたことがありました。また、好意的に「こんにちは」「ありがとう」などの知っている日本語を披露してくれる人も多かったです。書道の個展でお世話になり、仲良くなった図書館の職員さんは、私との出会いをきっかけに、日本語の勉強を始めていました。
時々送られてくるメッセージは、回数を重ねるごとに日本語の割合が多くなってきていて、とても嬉しく思います。さらに、ナント大学から新潟大学への交換留学応募では、その枠を競い合うこともしばしば。日本への関心の高さがうかがえます。
もちろん経験や感じ方は人それぞれですが、私自身は留学期間中、「人種差別」を経験することはほとんどなく、むしろ日本に興味を抱く人々との素敵な出会いにたくさん恵まれました。ナントは本当に心穏やかに過ごせるあたたかい街。留学にピッタリで、ぜひおすすめしたいです!

壊れる「あたりまえ」、広がる視野、変わる見方
渡仏前は、フランスでの日常生活やナント大学での学生生活に馴染むまで長い時間がかかるだろうと覚悟していたのですが、いざフランスに行ってみると、日本での生活とあまりに違う日常はもはや楽しく、面白く感じられ、意外にもすぐに慣れました。日本で「当たり前」だと思っていたことが“世界の普遍”ではないことを学ぶ日々。買い物や電車など、日常生活の中に「びっくり!」があふれていました。まるで「固定概念」がガラガラと音を立てて崩れていくような感覚は、とても心地よいものでした。


留学中は、授業を通じて世界中のいろいろな人と知り合いました。同じ教室の中にいるクラスメイトたちでも、フランス語を学んでいる理由は様々です。私と同じような大学からの派遣留学生のほか、国際結婚してフランスで生活し子育てする人や、フランスで職を得るために勉強する人もいましたし、中には祖国が戦争のさなかにあり、いつ帰国できるか分からない状況の中で自分の将来のために学んでいる、という同い年の友人もいました。
また、とある仲良しペアに出身を聞いてみたら「ロシア」と「ウクライナ」だった、というのも印象的な出来事の一つです。このように、留学を通じて「グローバル社会」というものが突然、自分のすぐ目の前に立ち現われて身近なものに感じられるようになり、視野が大きく広がったように思います。

フランスは、日本以上に人と人があたたかく太くつながっている社会だと感じました。いろいろな場所で挨拶が飛び交っているのが当たり前で、お店ではお客さんと店員さんがまるで友達であるかのようにおしゃべりしている光景もよく見かけます。そういう場面に接するたび、日本以上に人びとが「人間らしく」そして「自然に」働き、生活しているように思われ、なんだかとても居心地がよかったんです。

留学前まではとにかく「日本は(きっと世界で一番!)親切で優しく、住みやすい国」というイメージを持っていたのですが、留学をきっかけに見方が少し変わったような気がします。もちろん、親切で優しい人がたくさんいて、治安の良さや住みやすさも魅力の日本。でも時々、フランスでのあたたかい日々の記憶とともに、「日本もちょっとだけ、あんなふうになったら…」との思いが頭をよぎります。
「フランス」というはじめての場所に飛び込んで、そこでのライフスタイルや価値観に触れ、そして時間をかけて少しずつ自分の内部にそれらが取り込まれたことで、「それまでの自分」と「新しい自分」の2つの価値観が共存・融合するようになりました。こうして新しい見方や考え方が得られ、物事に対して多角的なまなざしを向けられるようになったことは、「人生における大きな財産」だと言っても過言ではないと思います。
次回は、帰国後の出来事や活動も紹介していく予定です。それでは、(私の連載の)最終回でまたお会いしましょう! À bientôt !!