「現在生きていくうえでも通用する歴史学」~片桐昭彦先生にインタビュー!

歴史文化学 4 年の野嶋、心理・人間学 2 年の古賀です。「新任教員インタビュー」として、中世日本史を専門にする片桐昭彦先生にお話を伺いました。 

学生時代を新潟大学で過ごされたということで、以前の新潟大学の様子など思いがけない話もお聞きすることができ、とても楽しくインタビューさせていただきました。

一般社会から切り離されがちな歴史学ですが、情報を取捨選択するメディアリテラシーを鍛えることにつながるなど、学ぶことの大切さを改めて痛感しました。

  • 日時:2019 年 7 月 3 日(水)10:15~11:15
  • インタビュアー:野嶋(歴史文化学 4 年)、小賀(心理・人間学 2 年)
  • インタビュイー:片桐昭彦先生(歴史文化学プログラム准教授)
(▲写真:片桐先生)

研究内容について

学生:先生は何をご専門に研究されていますか。

先生:日本中世史の、とくに戦国時代における権力と文書についての研究が専門になります。具体的に言うと、越後の上杉謙信や、甲斐の武田信玄といった戦国期の地域権力者たちがど のように文書を発給したのか、そして発給した文書が果たした機能と意義についてですね。それによって改めて戦国期の地域権力者や政治・社会について考えるという研究をやっています。

また、最近では歴史地震の研究もやっており、年代記や日記といった史料を用いて、前近代に全国各地で発生した地震の有り様を考えています。

ご経歴について

学生:先生のご経歴について簡単に教えてください。

先生:実は私はこの大学の OB でして、当時の新潟大学大学院の修士課程(現在の博士前期課程)を出ました。その後中央大学大学院の博士後期課程に進学して学位をとり、大学の非常勤講師などをつとめながら東京都練馬区の非常勤の学芸員の仕事を10 年近くやりました。

その後は東京大学の地震研究所というところで特任研究員をやり、2019 年 4 月から新潟大学へ来ることになりました。

学生:様々なところへ移動されていたんですね。先ほど本校の OB であるというお話や上杉謙信について研究されているというお話が出てきましたが、新潟への思い入れはありますか。

先生:そうですね。大学を卒業して新潟を離れた後も上越市史や六日町史といった新潟県内の自治体史の編集などに携わることもあったりして、新潟との接点はずっとありました。

学生:先生にとって新潟は深い縁のある場所だったんですね。

地震研究所の特任研究員をされていたそうですが、こちらはどのようなことをされていたんですか。

先生:地震については、私の前任者で恩師でもある矢田俊文先生が歴史地震の研究をされていて、いろんな研究プロジェクトを立ち上げて活動されています。そのお手伝いをしていく過程で私自身も歴史地震に興味を持って、少しずつ研究を始めたころに運よく特任研究員の公募があって採用していただきました。歴史地震の研究をしているのはここ 4、5 年のことで、それまでは深く研究したことはなかったんですよ。

学生:最近は大きな地震が相次いでいますが、そうした背景などもあるのでしょうか。

先生:それは大いにあると思います。とくに 2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震が発生してから、あらためて歴史地震の研究の重要性が評価されるとともに、研究の必要性が生じたことから、以前に比べると歴史地震の研究者も少しずつ増えてきているようですが、それでもまだまだ歴史地震は地震学者によるものが多い状況です。

歴史の史料を扱うのは歴史学者の専門、仕事ですので、やはり史料を扱う歴史地震の研究は歴史学者がしっかりやっていく必要があると思います。

(▲写真:古文書の写真をご覧になっている様子)

講義について

学生:今年度はどのような講義を開講していますか。

先生:今は古文書学概説という講義をやっています。古文書の様式ですとか、読み方など、基本的な話をしています。日本古代中世史 D という講義では、自分の専門の戦国時代の、先ほど説明したような戦国期の権力と文書について、具体的に史料をあげて読み進めながら戦国期の権力や社会について考える、という講義をやっています。

学部の日本歴史文化演習(ゼミ)では、新潟県立歴史博物館で所蔵している「越後文書宝翰集」という、700 通余りの中世の古文書群があって国の重要文化財になっているんですけれども、その中にある「築地氏文書」という下越の武家築地氏に残された文書三巻分を学生と一緒に読んでいるところです。

学生:ではゼミ生のみなさんは古文書を読めるんですね!すごいです。

先生:なかなかすぐに完全に読めるわけではありませんが、読めるようになるようみんなで勉強していくことになります。でも慣れてくると大分読めるようになりますね。

また、先日ゼミで実際に博物館へ「築地氏文書」を見に行ったのですが、その時はやはり反応が違いました。普段は活字に起こしたものを読むんですけれども、実際に筆で書かれた「くずし字」を見るのも違うでしょうし、文書という「モノ」としての史料、その形などを見て改めて考えることは大事ですね。

学生:とても貴重な経験ですね。

先生:そうですね。近くにそういう貴重な中世の文書を見られる場所があるというのは、新潟の恵まれたところだと思います。

新潟大学での学生時代

先生:私が卒業してもう 20 年余り経つんですけれども、大学周りにあったお店はたくさん閉店し、その分新しいお店は増えましたが、だいぶ変化したなあと感じます。けれども、基本的に新潟大学の学生は良い子が多いというのは、昔も今も変わらないと思います。

私の学生の頃は、先生の研究室や学生が集まる合同研究室(合研)が総合教育研究棟ではなく人文社会科学系棟にあって、合研のあった 4 階の窓から 3 階の屋上へ出ることができたので、いろいろやりました。読書や昼寝をしたり、佐渡へ沈む夕陽を眺めたりしたことをよく覚えています。

学生:研究の道を歩む人は、学部生の頃から他の生徒よりも高い目標を持っていたのだろうと想像する人が多いと思うのですが、先生は新潟大学ではどのような学生生活を送っていたんですか。

先生:入学した当初は研究者になろうとは思っておらず、出版関係の仕事に就きたいと思っていました。けれども、私が所属した考古学研究部の先輩で、大学院へ進学した方からお話をうかがっている内に、研究するのも面白そうだと思い始めました。

また、近くの自治体の埋蔵文化財の発掘調査や、新潟県立文書館の史料整理のアルバイトなど、学問や研究に関わるアルバイトを経験できたのは、意識変化に大きく影響したように思います。

学生へのアドバイス

学生:最後に大学生及び受験生へのアドバイス等ございましたらお願いします。

先生:古文書や史料を読んでいて大切なのは、どうやって信頼できる情報を抜き出すかという作業です。信頼できる情報を抜き出してきた中で、その情報を論理的に組み立てて歴史像を描いていくこれが歴史学だと思いますが、その作業自体は現在生きていくうえでも通用します。情報源が古文書などの過去のものか現在のものであるかという違いだけです。

周りのみんなが「いい」と言っているから正しいとは限らない、そういう目を養って自分で考える力を身に付けていってほしいと思います。

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