「ドイツ語は意味を細かく表現できる」~Anja Hopf 先生にインタビュー!

メディア・表現文化学 3 年の髙田、社会・地域文化学3年の河原井です。「新任教員インタビュー」として、ドイツ語教育、ドイツ文化学、日本研究を専門にするAnja Hopf 先生にお話を伺いました。

  • 日時:2021 年 8 月 13 日(金)10:00~10:30
  • インタビュアー:髙田 真希(メディア・表現文化学プログラム 3 年)
  • インタビュイー:Anja Hopf 先生(ドイツ語・ドイツ文化)
  • 文字起こし:河原井 美月(社会・地域文化プログラム 民俗学専攻 3 年)
(▲写真:Anja Hopf 先生)

現在の研究内容について

髙田:それではまず、現在研究されている内容について教えてください。

Hopf 先生:ここ数年間は研究というより学生へのドイツ語教育を中心に行ってきました。今年から人文学部に異動したので、また日本研究も少し再開できたらいいなと思っています。

 私は主に外国語教育と教授法を研究してきました。例えば、ドイツ語へのアクセス方法が少なかったり、論文1で挙げているように新型コロナウイルスの影響で留学ができなかったりという学生の現状があります。そこで FL-SALC2で開催されているドイツ語チャットのデータを収集し分析し、この状況に対する新潟大学の代替案を考えています。

学生作のドイツ語創作動画が教育賞を受賞

Hopf 先生:それから、作成した動画が大学の教育賞3を受賞しました。ドイツと日本の交流 150周年にあたる 2011 年にドイツ語の動画と音声のコンペティションがあって、これを機にドイツ語の動画を学生たちと作りました。その動画が優勝して二つの作品が一等賞、一つの作品が二等賞をもらい、ドイツ大使館で受賞席までいきました。ドイツ留学に行った学生もいました。

あまりにも楽しかったので、翌年以降も毎年ドイツ言語文化論で動画を作っていて、今では沢山の動画が完成しています。それらを調べて、このような取り組みを学生が円滑に進める方法や留意事項を報告する実践的な研究をメインとしています。

髙田:動画の内容はどのようなものだったのでしょうか。

Hopf 先生:動画の内容はホラー、コメディや殺人事件などいろいろあります。脚本作り、演技、撮影や日本語字幕の表示といった編集に至るまで全て学生の手で行われます。字幕があるのでドイツ語が分からない人でも楽しんで鑑賞できます。昨年は新型コロナウイルスの影響で対面作業ができませんでしたが、それでも Zoom ミーティングを活用して作りました。できるか不安だったので完成したときは感激しました。

髙田:そのドイツ語の動画は三年生以上の学生が作ったのですか。

Hopf 先生:そうですね。ドイツ語が分からないと自由に創作ができないので。毎回課題を設定していて、去年はもちろん「新型コロナウイルス」がテーマでした。一つは姫様(メルヘン)の話で、コロナを吹き飛ばすような面白い作品になりました。また、zoom ミーティングで起きた不気味な出来事のストーリや、アニメ作品までできました。

Hopf 先生の学生時代

髙田:それでは次に、先生の学生時代のお話をお聞かせください。

Hopf 先生:勉強をしまくりました。当時西ベルリンにあった母校のベルリン自由大学では、日本研究をやる前に1日4時間、週に 16 コマのスパルタな日本語教育を1年間受けます。ところが、学術的な資料読解のための勉強ばかりで、漢字を読めてもコミュニケーションができない教え方でした。友人と、毎週漢字をどんなに覚えたのだろうってくらいひたすら書いて読んで、熟語を読んで覚えて、それから…もうなんて面倒くさい言葉だろうね、日本語は(笑)。でも面白くってやめられなくなって。

日本に留学してから、こんな言葉だったんだと日本語がフィクションからリアリティに変わりました。留学が大きなモチベーションと言うか転換点になりましたね。

髙田:日本語学習で一番難しかったことは何ですか。

Hopf 先生:日本語で修士論文を書いたのですが、その時に今和次郎(1888-1973)という人について書きました。考現学って分かりますか。

修士論文「今和次郎の考現学について」

Hopf 先生:今和次郎は最初に柳田国男と一緒に研究をしていた人ですが、彼の方法を用いて関東大震災直後に東京の街の復活を記録した人です。考現学は、考古学とは違う現在の「現」の字で表します。私はその当時、修士論文で今和次郎の調査を翻訳し考現学の研究の資料などを読んで説明を加えていました。

一番大変だったのは、その時英語やドイツ語の資料が一切なく日本語の資料を使うしかなかったことです。その時の資料の日本語のレベルはまだまだ全然読めなくて苦労しましたね。

それから、その時はバブル後期で日本人の観光客が多かったんです。私はハイデルベルク大学に編入していて、そこにあるユネスコ文化遺産のお城のお土産屋さんでアルバイトをしていて、そのおかげで日本語を継続的に話すことができました。

ハイデルベルクはきれいですけど、ベルリンと比べると退屈なので早く出たいと思っていました。そのころ大学は難しくて勉強ばかりしていました。

大阪留学と、日本・ドイツの地方色

髙田:大阪での留学生活はいかがでしたか。

Hopf 先生:楽しかったですね。みんながすごくしゃべるから、やりやすいんですよね。大阪留学でドイツに持ち帰った日本のイメージはすごく明るいんです。卒業後は東京に引っ越しましたが、全然話してくれないのでなんて冷たい人たちだろうと。大阪にいたときはお金がなかったけどすごく助けてもらいました。大阪の人達は本当に親切で、毎日が楽しかったです。

それから、日本はやっぱり地方によって違うから、一つの国としてまとまれないなと思いました。日本の地方は気候から食べ物から言葉から多様な状態だから、「日本」よりももっと地方のカラーを出せればいいと思います。それを楽しめたら良いし、ヨーロッパも様々な文化や言語からなる域で、ドイツも分権主義だからすごく地方愛が強くて、地方を大事にするんですよね。

だから、参議院がなくてその代わりに地方会議 (Bundesrat, 連邦参事会)があって、国の政府で決まった法律をその州議院に通すんです。そして、州議員は自分たちに合わないと判断した法律を却下するんです。日本でいう「県」に相当する州が強いので、そのシステムが合うんじゃないかな。新潟に暮らして本当に思いますね。だから、日本の地方の違いも勉強したいなと思っています。

Hopf 先生が担当する講義

髙田:続いて、担当されている講義について伺いたいと思います。先ほど仰っていたように今は動画を作られていると思うのですが。

Hopf 先生:後期にもやります。後期は1、2年生の 専門科目でドイツ言語文化基礎演習を担当します。ゼミも持っていて、前期にはドイツの「想起」の文化について話していました。

1950~60 年代頃になると、戦前の「ナチ時代」をどうやって教訓に変えるのかという議論が盛んになります。第三帝国としてのナチズムの過去は無視できないから、みんなの中に罪悪感がありますし、二度と繰り返さないようにする記念館や記念碑がドイツには沢山あるんですね。それが日本には原爆ドーム以外ほとんど存在しないので、それをピックアップするとすごく面白いです。

ゼミではその違いを扱っています。ドイツ人は自分の共同体の過去が分からないと現代が分からないという感覚を持っているので、そこの違いが気になります。自分の中にもそうした感覚が強くあります。生まれた場所が隣国のフランスまで 30分のところだったりして、ドイツは国境が多いのが特徴でヨーロッパのことが大陸繋がりだから何となく分かる。フランス人、南ドイツ人のアイデンティティとかが強く存在していて、それぞれの違いがあります。

戦争も隣の人が国境の向こうだと戦うけど、戦後だと平和教育を通して悪いところを反省しないと仲良くならないから、それを大事にします。ドイツはそのような教育を国レベルでやるので、戦争後の、特に第三帝国のナチズムの後処理を知っていないと話せないと思いますね。

日本とドイツは同じ敗戦国と言われますが、私から見ると全然違います。現代ドイツを考えるうえでいわゆる「想起の文化」は大事です。

(▲写真:ゼミで使用するテキスト4

髙田:同じ敗戦国でもそのような違いがあるのは面白いですね。

Hopf 先生:日本の場合本当に複雑で、原爆を落とされた被害者でありながら加害者でもあります。だから、そこのバランスがドイツのやり方と異なりますし引っかかる点があるので、テーマにできることが沢山あります。

ドイツ語を学ぶ人へ

髙田:それでは最後に、ドイツ語学習を頑張ろうという人へのメッセージをお願いします。

Hopf 先生:ドイツ語はすごく面倒ですが楽しいです。難しいですがひたすら勉強し続けましょう! やはり楽器と一緒で継続は力なりです。一番良いのはドイツ語が通じるところに行くことです。実際に通じる体験をするとモチベーションがあがるし、ドイツ語は日本語と違って意味を細かく表現できる言語で抽象的な事柄にフィットしてると思いますね。細かいことを表現できます。

日本語は雰囲気を把握する単語、それを表現する言い回しが多いですが、ドイツ語は単語同士の関係がはっきりしているから詳細な意味通達が可能です。ドイツ語は細かいところにうるさいかもしれませんが、細かいことを知る、はっきりさせる言語として適切ですしとてもきれいです。単語を知るほど楽しめるのでぜひ継続して頑張ってほしいなと思います。

脚注

  1. ホップ・アンニャ、駒形千夏(2021)「FL-SALC 初修外国語チャット online? (フランス語・ドイツ語での試み 2020 年度)」『言語と普遍性と個別性』新潟大学院現代社会文化研究科「言語の普遍性と個別性」プロジェクト 第 12 号 p. 91-108
  2. Foreign Language Self-Access Learning Center の略語。図書館内に設置された外国語学習支援スペース。留学生との英語・初修外国語での自由会話、英語ライティング支援、スピーキング・ブースでの発音練習、担当教員による英語学習カウンセリングなどを行っている。
  3. 新潟大学教育賞
  4. アライダ・アスマン(2019)『想起の文化 忘却から対話へ』安川晴基 訳 岩波書店

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