「哲学をすべての人のために」~阿部ふく子先生にインタビュー!

心理・人間学3年の永滝です。「新任教員インタビュー」として、ドイツ哲学、哲学教育を専門にする阿部ふく子先生にお話を伺いました。

哲学を難しいものだと考えている人は多いと思います。しかし、阿部先生のお話をお伺いして、本当はこどもから哲学的知識豊富な研究者まで誰にでも考えることができ、いろいろな答えを出すことができる面白くて不思議な学問であると感じました。

  • インタビュー記録
    • 日時:2016 年 5 月 23 日 (月)16:30-17:30
    • インタビュアー:永滝(心理・人間学 3 年)
    • インタビュイー:阿部ふく子先生(心理・人間学主専攻プログラム准教授)

阿部先生の研究内容について

学生:先生の研究内容について教えてください

阿部先生:私の研究内容は大きく分けて2つあります。1つは専門であるドイツ哲学です。ヘーゲルを中心としたドイツ観念論とドイツの啓蒙思想の研究をしています。

もう1つが「哲学教育」です。これは、私が博士課程の院生時代に大学や専門学校で哲学と倫理学の授業をすることになったときに、改めて哲学を専門としない人たちにどうやったらわかりやすく教えられるのかという問題意識を持つようになり、哲学教育という研究分野に自然と手を伸ばしたことがきっかけです。哲学教育研究に本格的に触れるために2年前にはドイツの大学へ在外研究にも行きました。

その後、前職の「東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」で「Philosophy for Everyone」というプロジェクトに携わりました。それは「哲学をすべての人のために」という理念のもとで、哲学用語や難しい知識を使わずに哲学をしようというプロジェクトで、主に「哲学対話」のワークショップを積極的に行なっていました。

新潟大学で担当されている講義について

学生:どのような講義をなさっていますか。

阿部:特に私は最近、18世紀ドイツの啓蒙思想に興味を持っています。18世紀ドイツの啓蒙思想は当時、知識人のものだった哲学を一般市民にも分かりやすいかたちで書物等を通じて流布させようする思想でした。まさに先の哲学教育と同じ考え方が18世紀ドイツの啓蒙思想にも見られます。

啓蒙思想に関する講義や演習では、「哲学の公開性とは何か」という現代にも通じる普遍的な問いを据えながら、いろいろな啓蒙主義者の思想を取り上げています。

ドイツ語の授業では「こどもの哲学」というテーマを取り上げています。使用しているドイツ語のテキストには、子供が発するような「家族ってなに?」とか「感情ってなに?」とかそういった大人でも答えづらいような哲学的な問いのコレクションが載っています。

それらの問いを改めて大人の私たちが考え、哲学対話も取り入れながら語り合い、もし子供にそんな質問をされたらなんて答えるのかを簡単なドイツ語で書いてみる、という授業をしています。

広い意味で私の講義は「哲学教育」という視点で関連しているように思います。

▲写真:演習で使用しているテキスト。黄色い本はドイツ語、青い本は英語で書かれており、いずれも『啓蒙とは何か』というタイトル
▲写真:オレンジ色の本はドイツ語の授業のテキスト。
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先生の経歴・学生時代について

学生:これまでのご経歴を教えてください。

阿部:私は新潟大学人文学部人間学講座で哲学を専攻しました。その後、ドイツ哲学をさらに深く研究として掘り下げていきたいと思い、東北大学大学院文学研究科の博士前期課程、博士後期課程へと進み、ヘーゲルの哲学に関する博士論文を書きました。

さらにその後は、哲学教育への関心からドイツへ在外研究に行ったり、東京大学で哲学対話のプロジェクトの特任研究員をしていました。

学生:どのような学生時代を過ごされましたか。

阿部:学部生の時が一番純粋に充実していたように思います。大学の人間学資料室にみんなで集まって、長い時は夜中まで哲学的なことや、生活とか人生、日常に関することを仲間と話していました。それがその後の私の人生の糧になった気がします。

答えのない哲学的な問いをみんなで延々と考えたという体験が、自分一人で考えたり、授業で学生と一緒に考えたり、論文を書いて研究者と議論をするときの、すべての力というか感覚の源になっているように思います。

学生:哲学に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか。

阿部:高校の倫理の授業で哲学的な問いに魅力を感じたのが大きいですね。あと、高校3年生で進路選択をするときに、文系でいうと法律や経済などの実学と呼ばれる分野よりは、人文学のような人間の精神について全体的な視野で考える学問を学びたいと漠然と思っていたので、地元の新潟大学人文学部で人間学を専攻しようと決めました。

哲学を学ぶ方へのメッセージ

学生:最後に何かお伝えしたいことはありますか。

阿部:哲学を勉強する学生にお伝えしたいことは、哲学をあまり堅いものだと考えないでほしいということです。大学で学ぶ哲学的な知識や理論は、難しいテキストを読んだり先生の話を聞いて養っていくものだと思うのですけれども、哲学はそのような難しい言葉でしか語れないものだと考えないでほしいなと思います。私の講義でも気を付けていることですが、難しい理論を自分の経験に即して自分の言葉で考え、語れるようになってほしいです。

私が交流してきた方々の中には、哲学を専門としていなくても哲学が好きな方はたくさんいます。でもそういった人でも、「哲学は難しい」、「哲学はとっつきにくい」というイメージがあると言います。もし哲学という学問が難解なものでしかなく、人の自由な哲学的思考の妨げになっているとしたら、それは哲学研究者の責任でもあると思います。

哲学は、本当は難しい言葉を使わなくても語ることのできる柔軟で開かれた学問であると思っています。

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