「心躍る発見を常に味わう喜び」~森貴教先生にインタビュー!~

社会文化学プログラム4年の田中です。「新任教員インタビュー」として、考古学を専門とし、今年度准教授に就任された森貴教先生にお話を伺いました。 

研究室を飛び出し、過去の遺物と実際に対面する考古学。様々な発見の喜びや分野を越えた多様性に溢れていました。過去とのつながりが、現代が抱える問題を捉える視点にもなり得ることを知り、人文科学や考古学の意義を改めて考える機会になりました。

  • 日時:2023 年 10 月 5 日(木) 16:30~18:00
  • 場所:総合教育研究棟 A405
  • インタビュアー:田中文也(4年)
  • インタビュイー:森 貴教先生 (人文学部准教授)
  • 記事制作:田中文也
    森 貴教先生(考古学)

研究内容

森先生:遺跡から出土した石器や鉄器といった道具から、弥生時代の生業変化と展開、交流関係について研究しています。弥生時代は稲作が広まり、石庖丁や石斧といった石製の農工具や金属器が使用されるとともに、朝鮮半島を通じた大陸との交流も活発になった時代です。特に新潟県は西日本や東日本、北日本の様々な地域の文化が流入し、交流が盛んになされた地域的特色がありますが、その歴史的背景を探っています。

森先生:モノや痕跡といった物質資料から人類の歴史を明らかにしていく学問です。考古学で対象とする時代は原始や古代のみならず、中近世や近現代の煉瓦や戦争遺跡といったごく最近の時代まで扱います。物質資料に注目するという点でアプローチの仕方は異なりますが、文字史料を扱う文献史学や聞き取り調査を行う民俗学と同様の対象を扱うこともあります。さらに、蛍光X線分析による元素測定など、理化学的解析によって肉眼で確認する以外の分析が可能になり、遺物の原産地の推定など新たな発見に繋がります。

森先生:心躍るような発見を常に味わえる喜びがあります。出土した土器にその土器を製作した人の指紋や調理したときに付いたおこげが残る場合があるのですが、当時の人々の暮らしぶりがリアリティをもって感じられます。以前、学生と実施した発掘調査で捨てられそうだった小さな破片が実は弥生時代の管玉(アクセサリー)だと判明したこともあります。このような大小さまざまな発見に日常的に出会えることは考古学の研究・調査ならではの魅力だと思います。

森先生の所有資料。弥生時代の石斧未成品やその原石、砥石などを専門に扱う。

森先生:遺跡は過去の話ですが、実際にあった出来事であり、戦争の悲惨さや災害の痕跡を教訓として伝えることができるかもしれません。例えば、弥生時代終わりごろの緊迫した情勢の中で集落を高台に移して壕を巡らせた高地性集落は、それまでの時代の集落と比べてあまり長続きしていません。抗争と社会の安定性の関係について、考古学的に表象していると言えそうです。さらに、遺跡から判明する住まいの在り方や限られた資源、食料の生産方法なども、現代的な課題に重なる部分もあり、より良い社会へ向かうための提言が可能になると考えています。

ご来歴&先生の学生時代

森先生:出身は愛知県の岡崎市です。近年は大河ドラマやYouTuberグループで注目される地域ですね。実家の周囲には岡崎城や遺跡公園、寺社仏閣など歴史に触れるきっかけがたくさんありました。もともと歴史や考古学が好きだったのですが、中学生のときにショッピングモールを建てる場所で行われた古墳の発掘調査を見学した際に、きれいな状態で出土した形象埴輪(人や物をかたどった埴輪)を見て、土の中からモノが出てくる衝撃に感動しました。当時は「文化財」という言葉も知らなかったですが、将来、何らかの形で関わっていきたいと思ったきっかけの一つです。

森先生:いえ、地元の工業高専へ進学し、土木工学や都市工学を学びました。高校生から大学レベルの専門的な内容が学べるという点や寮生活といった特別な生活に憧れをもっていたことが理由です。学んだ工学はどちらかといえば考古学とは逆の方向ではありますが、測量技術や土に親しんだ経験は現在もかなり活きていると感じます。しかし、やはり考古学を学びたいと思い、熊本大学文学部へ第3年次編入しました。3・4年次は夏休みに発掘調査を伴う実習が行われるのですが、長い時には計4週間以上に及ぶことがあり共同で自炊生活を送る大変な日々でした。それでも現場はとても楽しかったです。

森先生:研究者を目指したというよりは、研究が好きで続けている、といったところですね。卒業論文では熊本の磨製石器を扱ったのですが、さらに研究内容を深めたいと思い九州大学の修士課程へ進学しました。その後博士課程に在籍しながら福岡県大野城市の発掘調査技師として古墳などの発掘調査を担当しました。九州大学埋蔵文化財調査室では、大学キャンパスの移転に伴う更地化にあたっての発掘調査を担当しました。工事の立ち合いから関わった石積遺構が、その後の調査によって鎌倉時代に蒙古襲来の備えとして築かれた元寇防塁の跡だと判明しました。教科書レベルの大発見に携わることができた経験でしたね。平成30年(2018)3月に新潟大学研究推進機構超域学術院の特任助教に着任しました。新潟に来て5年になります。

「考古学実習」による赤坂遺跡での発掘調査の様子

担当授業

森先生:2年次から履修できる「考古学実習」では、遺跡の調査に必要な器材の使い方、測量、図面の取り方、写真の撮り方を学ぶとともに、夏休み期間を利用して実際に発掘調査を実施し、調査全般の方法を学びます。

今年度開講された「考古学実習C」では、2世紀後半から3世紀前半の弥生時代の遺跡である赤坂遺跡を調査しました。長岡市和島地域の遺跡です。測量を行い、土の色を見ながら掘り下げていきます。赤坂遺跡は前述した高地性集落の一つで、今年度までの3回の調査により、集落を囲む大規模な溝(環濠)が確認されました。県内でも最大規模を誇り、緊迫化した社会情勢の中で防御の機能を果たしたと考えられます。

学生が分担して執筆した調査報告書

調査後は学生自ら報告書を分担して執筆し、成果を一般の方が図書館や全国の大学で閲覧できるようになります。また、3年次から履修できる「考古学演習」では論文を講読することで考古資料の扱われ方や分析の方法などの課題を議論するほか、資料集めや各自の研究テーマ設定など卒業論文執筆の準備を進めていきます。

学生へ向けて

森先生:自分以外の視点(広い意味での他者)と出会う経験を大切にしてください。人文学部は人間の営みや社会・文化について幅広い学問があり、様々な切り口からアプローチしていきます。固執することなく、隣接する分野の関わりを踏まえた多様性を理解し、自身の懐を広くしていきましょう。

10月に開催された、赤坂遺跡の第3次調査報告会

そのために、学生のうちに色々なものを見るのがいいと思います。明確な目的が無くてもあちこち動いて、見たことのない風景や人と出会ってみるのがいいでしょう。きっとかけがえのない経験になるはずです。あと、もっと大学という環境を活用していいと思いますよ。膨大な資料を有する図書館があるし、各分野のプロフェッショナルな先生方が身近にいる環境は非常に貴重ですから。

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