経験を積んで成長する~実習訪問「地理学実習・太田凌嘉先生」

1年の西原、藤井です。今回の「実習訪問」では社会文化学プログラムのうち、自然地理学・地理情報科学を専門とする太田凌嘉先生がご担当する地理学実習を紹介いたします。太田先生のインタビュー記事はこちら

身近な暮らしの豊かさを探究する地理学

太田凌嘉先生は惑星表層、とくに地球において、地形変化と水循環及び生物活動の場となっている地表近傍境界域 (critical zone) の不思議を探究しています。自然環境がもたらす脅威と恩恵をバランスよくとらえることで身近な暮らしに豊かさをもたらしてゆくことを志向して地理学の研究と教育に従事されています。

地理学実習では、先生と学生が膝を突き合わせて自由闊達に対話をすることが重視されています。この実習は、地理学の専門性を身につけるというよりも、学生一人一人が卒業研究を自律的に遂行できるようになることを目的として、応用可能なスキルと能動的な学修習慣を身に着ける訓練と位置付けられています。

新潟大学では、地理情報システム (GIS) やクリエイティブソフトウエア (Adobe) が無償で自由に使えるという恵まれた学修環境が提供されており、それらを活用した研究が展開されています。GISは様々なデータを地図上に重ねて分析することができるソフトウェアで、地域に内在する課題を解決するのに有用な研究ツールです。新潟大学人文学部では、 GISを使った自由闊達な研究が太田凌嘉先生の懇切丁寧な指導のもとで展開されはじめています。

学生一人一人が研究をデザインする

先生:「今回の実習は、無償公開されている衛星画像データを活用して、身近な地域課題(耕作放棄地や宅地の拡大)を考えるというOJT (On the Job Training) と位置づけられます。この内容は、学生さんと一緒に実施した現地調査から得られた気づきをふまえて、決定されました。地理学実習では、レジメの字面を読み合うだけの無機的な対話の繰り返しはしません。学生さんが近未来の社会で躍動するために不可欠な仕事力を涵養(かんよう)してもらうために、自分の仕事をデザインするところから丁寧に訓練してもらい、一人一人の進捗に応じて研究を指導するようにしています。実習での教員の役割は、学生さんが仕事を遂行できように支援することだからです。」

実習の内容

地理学実習はフィールドワークを実践し、現場で得られたデータに基づいて論証するために必須となる技能を身に付けるように年間計画が組まれています。太田先生が指導する地理学実習では、まず学生一人一人が調査地とテーマを設定したら、課題解決に必須となる地域の情報をレビューしつつ、現地調査の計画を構想し、対話を繰り返しながら、実際に現地調査を行います。この過程で、地理情報システム (GIS) を始めとした調査分析のスキルを身に付けていきます。

2025年度の地理学実習は9月16日から19日にかけて富山県富山市で実施されました。太田先生の地理学実習では、現地でオリジナルのデータを下手でも良いから獲ってくることがミッションとなっています。せっかくお金と時間をかけていくからには、ハコモノに閉じ込もらずに、フィールドスタディーズとして真実を曇りなき眼で見定めようという狙いです。地理学実習の研究は、飲食店の店舗展開やまちづくりといった人文地理学の内容に限定されず、ここで紹介するように、自然環境の変化と人びとの暮らしとを関連付けて統合的に論考する自然地理学、最近では統合地理学と呼ばれるトピックの探求にも実践されています。

ここで紹介する内容は、過去100年間における神通川下流域の耕作地の変化が少子高齢化に同調していることを突き止めたAさんの研究を紹介します。Aさんは研究テーマを決めるために、地理院地図や衛星画像をみていたところ、富山の市街地を流れる神通川の流路沿いに分布する耕作地に関心を持ちました。神通川の周辺に分布する耕作地は、現在よりも広い範囲であったにも関わらず、その面積が目で見てもわかる程度に減少しています。なぜそのようなことが起こるのか。Aさんは、この土地利用の変化が人びとの暮らしに密接に関わる問題であろうと着想し、地理学実習での研究テーマに選んだそうです。

そもそもなぜ耕作が行われたのかというと、戦後に食糧難に陥った時のために川の近くで畑を作り出したのがきっかけだそうです。この畑は1969年に神通川が一級河川に指定された後でも、周辺の住民らによって維持されてきました。

Aさんは衛星画像から算出されるNDVI (Normalized Difference Vegetation Index:地表面の植生活性度合をあらわす指数) から土地利用の経年変化の傾向を分析するとともに、1960年代、2007年、2020年の航空写真を丁寧に判読し、神通川下流域の耕作放棄地の拡大程度を調べました。なんと、1960年代から2020年代にかけて、耕作地は60%も減少していることが判明しました。

Aさんが2025年9月に調査したところ、河畔で育てられているのはナスやトマトなどの野菜であり、場の条件を活かして利用者が消費するための野菜が育てられているとのことです。また、Aさんが地表被覆を判読した最新の衛星画像は2020年に得られたもので、ここ数年の間にも耕作地の放棄が進んでいることが明らかにされています。

Aさんは、耕作地利用者のほとんどが年配の方であることから、神通川下流域の土地利用変化に人びとの暮らしが反映されているのではないかと考え、近隣地域の人口構成を調べています。実際に、耕作地の放棄が加速する2005年から2020年にかけて近隣地域の高齢化も進んでいます。これらのことから、Aさんは、耕作従事者となる住民の少子高齢化が土地利用と同調していることを論証しました。

受講生に聞いてみました!!

Q. 地理学を選択した理由を教えてください。

  • 中学生のときから地理が好きで、大学で研究するなら地理がいいなと思い、地理学を選びました。
  • 高校生のとき、地歴科目の選択で地理を選び、授業を受けて行くなかで地理の面白さに気づき、本格的に地理学を大学で学びたいと思いました。新潟大学への進学を決めたのは人文学部に地理学の教室があったことが決め手です。
  • 高校で地理は履修していなかったのですが、もともと知らない場所に行くのが好きだったので、フィールドワーク系の学びに惹かれて、地理を選びました。
  • 大学1年生で受講した入門講義で、地理学の堀先生が世界遺産や佐渡についてお話しされていて、自分がイメージしていた高校地理と地理学の研究は全然違う!と感じました。学校教育として学習する地理と最先端で実践されている地理学研究とはまた違う楽しさがありそうだと思い、地理の教室へ配属を希望しました。

Q. 基礎演習ではパワーポイントを自分で作成し、成果を表現するという訓練ができる、というお話でした。他の発表の場で、役立ったと感じたことはありますか。

  • テクニカルライティングの基礎は日頃から太田凌嘉先生に指導いただいています。そのため、他の講義で作文をする際に書類の体裁など細かいところに配慮が行き届くようになり、地理学実習で学んだことが役立っています。
  • インターンや就職活動などで、「自分でパワーポイントを作成して、その日のうちに発表する」といった機会はたくさんあるので、そこで活かせているのではないかなと思います。
  • 少人数で、みんなの反応を見ながら発表する機会はこれまであまりなかったので、地理学実習でのトレーニングは良い経験だなと思います。人前で自己表現をする度胸がついたおかげで、あらゆる発表に対する苦手意識が克服されつつあります。

Q. 普段の授業やフィールドワークで、楽しかった思い出を教えてください。

  • もともと知らない土地に行くのが楽しいので、夏季休業中に行われた富山県でのフィールドワーク(富山巡検)は印象的でした。自転車で緑地を巡ったり、海岸に行ったり、テーマに沿って景色を見るのがとても楽しかったです。
  • 富山巡検で泊まったホテルの部屋は富山駅がよく見える場所だったのですが、夜に人間観察をしながらちょっと晩酌をするのが楽しかったです。
  • おいしいものを食べるのが好きなので、富山のラーメンや海鮮を堪能できたのがうれしかったです。富山巡検が終わってホテルのベッドに倒れ込む瞬間が一番でした笑。
  • 事前に調べたものが、実際に現地に行って確認できた時に、「本当だ!」ってなるのが楽しかったです。

担当の太田凌嘉先生より

私は学士課程で地理学の専門性を身につけてもらうよりも、社会に出て他人と共に生活・仕事をしていくのに必須となるチカラを、時間的な余裕がある今のうちに、大学での学修を通じて、身につけて欲しいなと願っています。

あなたは、もし地理学教室を選んだとして、「なぜ」その問題を明らかにしたいですか? 問題解決のためには何をどうやって調査すればよいでしょうか。地理が好き、まち歩きが好き、旅行が好き、よいでしょう。ただし、地理学なら何でもできると勘違いしないでください。

どんな分野であろうと、研究(仕事)を進めるためには、明確なビジョンに基づくハードワークが必須です。自由気ままに楽しくキャンパスライフを謳歌したいのならば、プライベートな活動を中心として自分の好きなように振る舞える場所に身をおいた方が良いでしょう。

地理学をはじめフィールド研究は、まだ教科書に載っていないことを現場から見つけ出す、あるいは、教科書の内容をデータに基づいて論理的に書き換える、というように、やりがいに満ちた仕事です。資格取得の勉強とは異なりますから、必要と疑問を糧として能動的に学ぶことが研究で求められます。

もしあなたが、様々な困難を自分で仲間と乗り越えて、愉しいと思える瞬間を味わいたいのならば、地理学教室で、ぜひ一緒に地理学の旅(仕事)へ出かけましょう。自分で自分の限界を勝手に定めることなく、コツコツと努力できる学生さんを歓迎します。

さいごに

今回の訪問で、地理学がどのような学問であり、どのような内容を研究しているのかについて知見を深めることができました。問題、意識や興味をもって様々な地域を訪れ、フィールドワークを重ねる過程で新しい発見に出会うことは、なんとなく時を過ごす日常の生活では味わうことのない感動を得られるやりがいのある仕事だと思います。地理学実習は、和気あいあいとした雰囲気があり、先生と学生が連携して、一人一人がたのしく学修に励んでいるのが鮮明に伝わってきました。このようなあたたかい雰囲気があるのも地理学教室の魅力の一つのように感じました。

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