無意識かつ日常的に用いている言語を分析する~ゼミ訪問「言語学・江畑ゼミ」

英語学の島守です。今回は、言語文化学プログラムで言語学を専門にする江畑冬生先生のゼミを紹介します。言語学は言語を研究対象にする分野です。とはいえ、母語であれば、いちいち文法を意識して話したり書いたりしません。また外国語の文法を学んでも、実際の言語運用とかけ離れていることを感じたことがある方も多いと思います。

この言語学ゼミでは、この背後にある興味深い言語現象に関する議論が活発になされており、毎回のゼミで多くの発見があるだろうと感じました。

言語の仕組みを自由に議論する

ゼミの基本スタイルは、事前に受講者が指定論文を読んできて、質問や意見を自由に述べてもらう形式です。本当に「自由に述べて」います。不明な点を質問するだけでなく、言及されている言語現象に対する用例や具体例、反例を挙げながら、論文中の提案の妥当性を議論します。

この演習を通して、言語学の卒業論文を自分の力で書くためのスキルを身につけ、言語に関して興味深いと言える現象を見出すセンスを磨くことを目指しています。

▲泉 大輔 (2024) 『現代日本語の逸脱的な造語法「文の包摂」の研究』 ひつじ書房.

今回は、「第6章 後項「感」の記述的考察」(泉・2024)を読みながら、「感」の合成名詞の分類および特性について検討していました。「安心感」(漢語名詞+感)「しっとり感」(副詞+感)のような[語+感]だけでなく、「ごめんね感」(独立語文+感)「早く行けよ感」(命令文+感)のような[句/節+感]も思い浮かびます。

しかし、どの環境でも同じ特性を持っているわけではないようです。多くの用例を集め、分類し、文法的特性や意味的特性による分析を施して考察します。このように、日本語を中心に、普段意識しない言語の仕組みを説明することを試みます。

▲学生が考えた用例・分析を受講者・先生とともに検討します。

ゼミの終盤では、言語学や言語一般に関して自由に議論し合う時間(通称「自由の部」)があります。指定論文に関連すること以外でも、日々の学修・研究や日常生活の中で受講者各自が気になった言語現象について共有します。

「Wi-Fi難民」「韓国語難民」のようなSNSで見つけた流行語について紹介している受講者がいました。言語学の研究は、私たちが普段使用する言葉に対する疑問から始まることがあります。言語を通して、物事の変化・変遷や人間の認識・思考などを考えることにつながると思います。

実践的に習得する言語学研究法

新潟大学人文学部には言語学を扱うゼミは、他にも日本語学・英語学・中国語学があります(これらを個別言語学といいます)。それぞれの言語の特性について深く学ぶことができます。

一方、江畑先生の言語学ゼミでは様々な言語の例を挙げながら、「言語の類型・体系」に着目します。受講している学生は、言語学を主専攻にしている学生もいれば、日本語学を主専攻にしている学生もいます。

最終的に卒業論文で主軸とする言語は各々で決めますが、ゼミでは各自が持ち寄った用例を話題にしながら、活発な議論がなされていると感じます。

▲ちなみに、黒板に書かれている記号は「アクセント核」といいます。気になる方は「言語学概説」を受講してみてください。

このゼミは言語学に関する基礎知識を前提にしているので、「言語学概説」(例年前期月曜4限)といった言語学に関する基礎講義を履修することが推奨されています。また、実際に自分で言語データを収集・分析し、レポートを書くことを練習したい方は発展講義「言語行動論」「言語体系論」(隔年開講・後期月曜4限)も検討してみてください。

担当の江畑冬生先生より

「様々な初修外国語が必修の人文学部において,日本語や英語も含めた色々な言語を視野に入れながら,私たちが無意識かつ日常的に用いている言語の仕組みについて考えています.」

受講者に訊いてみました

➤ このゼミを選択した理由を教えてください。

  • 言語学に興味があったため
  • 言語学に興味があり、江畑先生のもとで卒業論文を書くため。
  • 興味のある分野だから
  • 言語学ゼミは多様な言語や幅広い分野を扱っており、自由で柔軟な研究ができると思ったからです。

➤ このゼミで、どのようなことを学んでいますか?

  • 各自で事前に指定された論文を読んできて、授業では気づいたことや疑問を述べ、それについて先生が解説や補足をしてくれるという形式で授業が進んでいきます。様々な論文を読むことで、言語学に関する新たな視点や知識が得られていると思います。
  • ゼミを通して言語について考えることで、今までは見えなかった言語の性質などと日常生活で出会えるようになりました。
  • 自分にできないことがあっても他の人がカバーしてくれて、完璧にできなくてもいいんだと思えるようになってきた。
  • 一冊の本をゼミ生全員で読み、意見交換をしています。自分の考えを発表すると、そこからまた違った議論に発展することもあり、連想ゲームのように繋がっていくのが楽しいです。

➤ 今後はどのようなことを学んでいきたいですか?将来の展望などもお聞かせください。

  • 現在は新造語や略語をテーマに卒論を執筆しています。
  • 卒業論文は、日本語とドイツ語の比較をテーマに書く予定です。将来言語学に直接関係する仕事に就く予定は今のところありません。でも、江畑先生の授業を通して感じた「言語って面白い」という感覚をもとに、新しいこと、特に様々な言語を学ぶ意欲を持ち続けたいと思います。
  • 日本語特有に感じるような性質について考えを深めていきたいと思っています。論理的な思考の仕方を活かしたいと思います。
  • 自分なりにやってみること。

過去の卒業論文とゼミテキストの一覧ページ

卒論題目とゼミテキストのリストが江畑先生のresearchmapに掲載されています。言語学の研究に具体的なイメージが得られるので、ぜひご覧ください。

新潟大学人文学部・言語学分野の卒業論文題目一覧

新潟大学人文学部・言語学ゼミの題材

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