歴史文化学3年の佐藤です。「新任教員インタビュー」として、ドイツ文学を専門にする田邉恵子先生にお話を伺いました。
ドイツ語には、1 年生の時の必修授業以来あまり触れていなかったのですが、今回、田邉先生のお話をお聞きしたことで、もう一度触れてみようと思いました。また、私の中で言語文化学は、外国語が得意な人が選択するものだというイメージが強かったのですが、少しでも言語やその土地の文化や歴史に興味を持っていれば、門を叩ける分野なのだということも感じられました。
私は今、歴史文化学を主専攻としていますが、それ以外で別の専攻を選べと言われたら確実に、ドイツ言語文化を選ぶと断言できるほどに魅力を感じたので、今回のインタビューでは大変有意義な時間を過ごすことができました。
- 日時:2021 年 7 月 31 日(土) 13:00~14:00
- 場所:Zoom 上
- インタビュアー:佐藤美波(歴史文化学3年)
- インタビュイー:田邉恵子先生(言語文化学プログラム准教授)
田邉先生の研究内容について
学生:「田邉先生、本日はよろしくお願い致します。それでは、まず初めに先生の研究内容についてお伺いしたいと思います。ベンヤミンについての研究をしていらっしゃるということでしたが、具体的な内容についてお聞かせください。」
田邉先生:「はい。ベンヤミンという人物について新潟大では、哲学の分野だったり、ドイツ文学やフランス文学分野で取り扱われています。『失われた時を求めて』というフランス文学で有名な作品があるのですが、実は 1920 年代にそれを初めてドイツ語に翻訳したのがベンヤミンなんです。彼は、哲学者であり翻訳者でありさらには、エッセイストでもあることから色んな分野にわたる著作の執筆活動を行っていました。
その中でも私が注目しているのが、1930 年代の亡命期の思想です。亡命期に彼は、1932 年から 1938 年の約 7 年間にわたって、自分の子供時代の回想録を書いているんですよ。なぜ亡命者であるベンヤミンが子供時代や故郷について書かなければならなかったのか、そのような問いを主軸に研究を進めています。ちょうど 2 年前にこのテーマで博士論文を書いたのですが、書き終わるくらいのタイミングでベンヤミンの幼少期について綴られた新しい資料が出たので、それをもとにより深くベンヤミンの作品についてリサーチを進めている状態です。」
学生:「ところでなぜ、ベンヤミンについて研究しようと思ったのですか。」
田邉先生:「もともと私の出身大学である早稲田大学では文化構想学部に入っていたのですが、1 年生の時に受けた授業でたまたまベンヤミンの翻訳について扱われていて、それがとても心に残り、ベンヤミンについてもっと知りたいと思ったのが始まりです。
そして、彼をもっと知るためにはまず、ドイツ語をしっかり学ばなければならないと思い、2 年生になる時にドイツ文学コースのある文学部に転部しました。そこからドイツ語でベンヤミンについて読むということを行ってきましたね。」
田邉先生の学生時代について
学生:「では、先生の学生時代の生活について教えてください。」
田邉先生:「私は、学部生から博士後期課程までずっと早稲田大学に通っていました。先ほども言った通り、大学ではドイツ文学について勉強していて、その時に早稲田大学内外で色んな先生方や友達とのかかわりがあり、それが一番の財産ですし、その人たちとは新潟に来た今でも交流が続いているというのがうれしく思います。
学生時代の思い出というと、授業はもちろんなのですが、一番楽しかったと言えるのは授業と授業の間の時間に大学近くにあった手作りケーキが美味しいカフェで友達とおしゃべりしたり、ドイツ文学の人がよく行っていた御飯屋さんで同期や先輩、先生方と一緒にワイワイ食事をしたりしたことですね。その時に先輩や先生方から聞いた耳学問を今でも授業のネタにしたりしているんですよ。
日常が戻ったらぜひ、新潟大学の学生さんたちにも、おしゃべりでの耳学問を楽しんでもらえたらなと思っています。」
学生:「ちなみに、部活動やサークル活動には入っていたのですか。」
田邉先生:「いや、そういう団体には入っていなくて、大学にいない時はアルバイトをよくやっていました。喫茶店や住宅展示場、大学院生になったら大学の事務のアルバイトなんかをしていました。大学の事務のアルバイトをしていた時は、出身大学のゆるキャラの着ぐるみを着たりもしましたね。」
学生:「着ぐるみですか…!?それはなかなかできない体験をしたのですね。」
田邉先生:「そうなんです。こういう経験だったり、それこそバイト仲間としゃべったりしたことも大学時代とても楽しかったですよ。」
田邉先生の担当授業について
学生:「ありがとうございます。次に、田邉先生が担当されている授業とその内容についてお聞かせください。」
田邉先生:「私は、ドイツ言語文化所属なので、専門科目としてはドイツ言語文化学を基礎から発展まで担当しています。基礎の講義では、2、3 年生向けにドイツ文学と文化史を中世から 1990 年代まで扱う授業を行っています。
内容は、中世であればマイスター・エックハルト、戦間期であればトーマス・マンのように、各回に 1~2 人の主人公となる人物を決めて、その人のテクストを中心に扱いながら、時代背景や文化的状況を教えるという形式上は講義なのですが、事前にテクストを読んでもらい意見交換を行うなどもするので半分演習のような授業です。この間おもしろかった例があるんですけれども、フランツ・カフカってご存じですか。」
学生:「はい。名前であれば聞いたことがあります。確か、『変身』を書いた…」
田邉先生:「そうです。やはりドイツ文学は高校まではやらない分野で、どうしてもとっつきにくいと思っている学生さんが多いようです。なので、ドイツ文学を自分のことのように捉えてほしいと思っていて、どうしたら学生の皆さんがドイツ文学との心の距離を縮められるかを一番に考えています。
カフカを扱った時は、読む前に「最近感じた不条理なこと」を紹介しあう時間を設け、その不条理なことにおける皆さんの体験と、『変身』において朝起きたら虫になっていたという主人公の体験にどのような類似点があるだろうという風に考えてもらうということをしましたね。他にも、グリム童話に関連させて地元に伝わる民話を紹介してもらうということもしました。
ただ何世紀にこのような作家がいて…ということではなく、自分のことのようにドイツ文学に親しんでくれたらという思いで基礎の授業を行っています。」
学生:「とても面白そうな授業ですね。私も今からその授業を受けたいくらいです。ところで、発展の授業ではどのようなことを行うのですか。」
田邉先生:「3~4 年生向けの発展演習では、少し難しいドイツ語の原文を読んでもらうのですが、量をこなすというよりもドイツ語のテクストをじっくりと一字一句読み、丁寧に解釈してもらうということを行っています。なぜ作者はここであえて時制を変えているのか、この用語を使う意味は何かなどをみんなで話し合う時間もとっています。」
担当の分野を目指す学生へのメッセージ
学生:「最後に、担当の分野を目指す学生へのメッセージをぜひお願いします。」
田邉先生:「先程言ったことと少し被るところがあるのですが、ドイツ語やドイツ文学は高校ではほとんど触れない分野なので取っ付きにくいと思う学生さんがほとんどだと思うんですけども、実は大学 4 年間って実は長いようですごく短い期間なんですね。だからこそ、その期間に、自分が知っていることの枠を取っ払って、知らなかったことにもチャレンジしてほしいなと思います。
知らなかったことに飛び込むという点で、ドイツ言語文化学で一番いいなって思うところは、皆さんはドイツ文学を先に思い浮かべると思うんですけど、それだけじゃないんですね。新潟大学のドイツ言語文化学では、造形芸術や現代事情、歴史など様々なことを、私とアンニャ・ホップ先生とですべてカバーできます。
なので、ぜひ今までドイツ語やドイツ文化学に触れてこなかった人、色んなことに興味があって何から手を出していいかわからないという人にぜひとも、いやむしろ来てほしいですね。ドイツ語も英語と同じように覚えることが多くて簡単な言語とは言えないのですが、その分、ひとりではなくクラス皆で協力してやろうという雰囲気ですので、固く考えずに、気軽にドイツ言語文化の門を叩いてほしいなという風に思います。」
◎田邉恵子(たなべ けいこ)先生
言語文化学プログラム(ドイツ言語文化)准教授。早稲田大学大学院文学研究科ドイツ語ドイツ文学コースを修了。大阪市立大学都市文化研究センター研究員や東京女子大学現代教養学部非常勤講師を経て、2021 年 4 月、新潟大学人文学部准教授として着任。