知ってる?学芸員という仕事・第1回~渡邉直登さんにインタビュー

社会文化学プログラム出身の田中です。今回は、本学人文学部を卒業し現在は仙台市歴史民俗資料館の学芸員として働く渡邉直登さんにインタビューを行いました。

人文学部では、所定の諸講義を履修することによって、学芸員資格を取得することができます(詳細は人文学部HP参照)。しかしながら、この記事を読んでいただいているみなさんの多くにとっては、教職や行政系の公務員等と比べて馴染みのある職業とは言い難いかもしれません。

そこで、本記事では、渡邉さんとのインタビューの模様を伝えることを通して、みなさんが学芸員という職業への理解を深める機会にしたいと考えています。

来館者に企画展の展示解説を行う渡邉さん(仙台市歴史民俗資料館提供)
  • 取材日:令和8年3月16日(月)
  • インタビュイー:渡邉直登さん(仙台市歴史民俗資料館勤、新潟大学人文学部卒業)
  • インタビュアー:田中、吉田、関(所属・学年はインタビュー実施日時点)

自己紹介

田中:大学院博士前期課程2年の田中です。専門は日本中世史で、戦国時代の武家領主について、権力の仕組みを研究しています。趣味は大学から始めた茶道で、休日はお茶会に参加してお菓子とお茶を楽しみ、一息つくのが好きです。

:人文学部1年の関美心です。新潟市出身です。日本文学や西洋美術、特にシュルレアリスムに関心があります。趣味は紅茶とお菓子作りです。

吉田:人文学部1年の吉田真優です。同じく新潟市出身です。現在は美学に興味を持っています。趣味は読書やゲーム、そして自分の好きなものを集める「嗜好収集」です。

渡邉さん:渡邉直登です。山形県の中山町という、小さな町の出身です。芋煮会発祥の地や、NHKのドラマ「おしん」のロケ地として知られています。新潟大学では学部生から大学院の博士前期課程まで民俗学を専攻し、現在は仙台市歴史民俗資料館の学芸員です。専門の民俗学では、ダム建設に伴う集落と墓地の移転に着目し、住民の家や親戚同士の関係や、故郷への意識について研究してきました。また、山形や仙台の芋煮文化にも関心を持っており、「郷土食」という視点や、芋煮会のような「行楽」が人と人を結びつける社会的な役割も研究対象です。趣味はバイクやカメラ、キャンプなどのアウトドアです。

普段のお仕事

吉田:そもそも学芸員の仕事とは、具体的に何をしているのでしょうか?

渡邉さん:学芸員は博物館の専門職員です。私のいる仙台市歴史民俗資料館では、明治時代以降の文字資料や写真、絵はがき、そして民具などを収集し、整理・保管するのが大きな仕事です。また、毎年調査報告書を執筆するなどの調査研究も行います。

さらに展示も重要です。年に一度はテーマを決めて企画展を行います。今年は竹の民具を扱いました。他にも小学校への出前授業や市民講座などの普及活動もします。ただ、実際は自分たちで「雑芸員(ざつげいいん)」と自虐的に呼ぶほど雑多な仕事が多いのですよ。先週も、資料整理のために資料庫へ行ったのですが、落ち葉がひどくて。結局、2時間ずっと掃除をして終わって帰ってきました(笑)。

吉田:2時間も……! 大変な重労働ですね。そんな様々なお仕事をするなかでやりがいを感じるのはどんな時ですか?

渡邉さん:自分の面白いと思った研究内容を展示や講座で伝え、「勉強になった」「面白かった」と言ってもらえた時ですね。博物館は資料を後世まで伝えていく施設です。アンケートで「こういうものを大事に継承しなきゃいけないね」という言葉を見ると、自分の仕事が伝わったなと感じます。

一方で、大変なのは、資料を守るプレッシャーです。壊れやすいものを扱う緊張感もあります。また、戦争や嗜好品に関わる展示では、様々な思想を持つ方から意見をいただくこともあります。ちなみにうちの資料館の建物は、元々は旧陸軍の歩兵連隊の兵舎を使っているのですが、そうした歴史的背景もあり展示を行う際には特定のイデオロギーに偏ることがないよう注意を払っています。

学芸員を目指したきっかけ

:渡邉さんが学芸員を目指したきっかけは何ですか?

渡邉さん:自分の研究内容や、民俗学という好きな学問に携わり続けたい、究めたいと考えた時、専門職として学芸員という道が見えてきました。将来をどうするか、ということよりも、自分のやりたいことに忠実だったのだと思います。実は、行政に関わる公務員の勉強もしていました。

しかし、自分の将来の具体像がはっきり見えてきたのが、専門性を生かせる学芸員でした。結果として採用に繋がりましたが、今振り返ると、他の選択肢も考えておいた方がよかったように思います。採用に至らなかった場合のことを考えてもそうですし、何より選択肢を1つに絞るということはある意味で自分自身の可能性を狭めることになりますので。

田中:民俗学を専攻しようと思った具体的な転機はあったのでしょうか?

渡邉さん:小さい頃から歴史に関わる物事は好きでした。父も歴史が好きなので、ドライブで近所の古墳を巡りました。ただ、根底にあるのは、小学校2年生の時に曾祖母を亡くした際の、「死ぬこと」への強烈な恐怖心です。そこから、お墓や葬式といった死に関わるシステムに関心を持ち始めました。大学進学時は日本中世史とも迷いましたが、より現代の自分に関連する民俗学を選びました。

進学と就職の経験

吉田:大学院への進学や、厳しいと言われる就職活動について教えてください。

渡邉さん:進学については、まずは専門性を高めるために指導教員のもとで卒業論文をきっちり書くことに集中しました。学芸員の採用試験に向けては、公務員試験の勉強と並行していましたが、結果的に良かったと思います。学芸員は専門職ですが、自治体の所管であることが多いですから、公務員の教養試験はまずあります。

また、学芸員の採用試験は狭き門です。採用枠1人に対し、倍率が20倍、30倍になることがあります。また、一人抜けるから一人募集します、という感じなので、自分の行きたい自治体に募集がまずないと考えた方が良いと思います。私は大津、石川、大田原、長岡、福島、仙台と6つの自治体を受けました。自治体ごとに現地の歴史や民俗の試験が出るので、前日に現地入りして博物館で知識を叩き込むことがありました。

博物館をめぐる課題

田中:昨今、博物館法(文化庁より)の改正などで資料の「廃棄」の問題が議論されています。現場の現状や渡邉さんのお考えについてお聞かせいただきたいです。

渡邉さん:資料を保管する収蔵庫が満杯という問題があります。現行の博物館法第2条には、博物館の目的として、資料を収集し、保管し、展示する旨の内容がありますが、そのうち保管に関わる話です。うちの館では10万点ほどの資料がありますが、施設内に置けているのは4万点ほどです。残りは廃校舎や市が所管するプレハブなどに分散して保管しています。管理の難しさはありますが、それでも「廃棄」「除籍」という選択肢は博物館の使命に反すると考えています。

かつては高度経済成長期を経て「消えゆくものをとりあえず収集する」という時代もありましたが、私が普段資料を収集する際には収蔵スペースの問題もあるため、「その資料にどういうエピソードがあるか」など、収集後の活用方法も意識して吟味するようにしています。大切なのは、地道な清掃や目録作りといった基本作業を怠らないこと。この地道さを諦めたら、学芸員はいらなくなってしまいます。

最後に一つ付け加えると、博物館の価値を社会に知ってもらうことも大事です。うちでは年3回「バックヤードツアー」を行い、あえて満杯の収蔵庫を見てもらっています。現状を知ってもらい、理解者(ファン)を増やしていくことが、資料を守ることにも繋がるのです。

学生へのメッセージ

渡邉さん:今振り返って大切だと思うのが、「自分の軸」と「スキル」を意識することです。大学生活の4年間は、自由に学びたいことが学べる貴重な時間です。学問でも何でもいいので、自分の「軸」になることを見つけてください。そして、その活動を通じてどのような「スキル」が身についたかを意識しておくと、卒業後のキャリアにも繋がっていくはずです。例えば、民俗調査で培ったフィールドワークでの「聞き書き」のスキルがあれば、ライターや取材の仕事でも通用します。学問を通じて得たスキルが、社会のどこで活かせるかを考えることが大切です。

来館者に企画展の展示解説を行う渡邉さん(仙台市歴史民俗資料館提供)。企画展「くらしの中の竹」は、2026年4月12日(日)まで開催しています。

おわりに~インタビューを通した感想

:学芸員のお仕事は、0から100まで幅広いスキルが必要な素晴らしい仕事だと改めて感動しました。

吉田:学芸員は仕事内容の幅が広く、必要なことはなんでもするので「雑芸員」と揶揄されるというお話が衝撃的でした。実態もひっそりと資料を見ているイメージでしたが、今回お話を聞いてとても身近に感じられました。大学在学中に自分のスキルを見つけられるよう頑張りたいです。

田中:自身がこれまで研究してきたことが社会にどう役立つか、自分が身に付けてきたスキルの使い方を考える転機になりました。

田中・関・吉田:本日は貴重なお話をありがとうございました!

〔付記〕本記事内に掲載した写真は、渡邉直登様及び、仙台市歴史民俗資料館より提供いただきました。記して感謝申し上げます。

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