知ってる?学芸員という仕事・第2回~小野百合香さんにインタビュー

社会文化学プログラム出身の田中です。今回は、新潟市新津美術館学芸員の小野百合香さんにインタビューをさせていただきました。 

人文学部では、所定の諸講義を履修することによって、学芸員資格を取得できます(詳細は人文学部HPを参照)。しかしながら、この記事を読んでいただいているみなさんの多くにとっては、教職や行政系の公務員等と比べて馴染みのある職業とは言い難いかもしれません。 

そこで、本記事では、本学教育学部に在籍しながら学芸員資格を取得し、現在、学芸員として勤務されている小野さんとのインタビューを通して、みなさんが学芸員という職業への理解を深められる機会にしたいと考えています。 

展示室を清掃している様子(小野百合香さん提供)
  • 取材日:令和8年3月24日(火) 
  • インタビュイー:小野百合香さん(新潟市新津美術館勤務。新潟大学教育学部卒業) 
  • インタビュアー:田中、吉田 記録:関 

自己紹介 

田中:本日は新潟市新津美術館の学芸員の小野百合香さんにインタビューをさせていただきます。M2の田中と申します。専門は日本中世史です。 

吉田:新潟大学1年の吉田です。現在教職課程を履修中で、あわせて学芸員資格も取れるか検討中です。今日はそのあたりについて詳しくお聞きしたいです。 

小野さん:美術館学芸員の小野です。昨年の4月から学芸員になり、現在1年目です。新潟大学教育学部の美術科出身で、その後、同大学院の修士課程(博士前期課程)に進みました。修士課程修了後は一度国立大学の事務職員として2年間働き、その間に試験を受けて学芸員になりました。専門は19世紀イギリスの画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティです。 

普段の仕事内容 

田中:普段は学芸員としてどのようなお仕事をされていますか。 

小野さん:新津美術館では業務の固定はなく、年度ごとに担当が変わることもあります。現在私が担当している主な業務は、まず作品の保存管理です。収蔵庫や展示室の温湿度や害虫の有無をチェックします。続いて広報です。メディア対応や、公式SNS(X、Facebook、Instagram)、ホームページの更新などを行っています。その他、企画展の副担当として展示の準備や運営にも関わっています。 

田中:1年目からかなり本格的な業務に携わっていらっしゃるのですね。 

小野さん:はい。覚えることも多いですが、やりがいがあります。ただ、各業務には主担当と副担当がいて、先輩職員に相談しながら進められる体制になっています。現在、学芸員は6名、事務方や館長を含めて全員で10名という体制です。 

学芸員のやりがいと気付き

田中:実際に働いてみて、驚いたことや気づいたことはありますか。 

小野さん:想像以上に多くの人と関わる仕事だということです。市役所の方々、他館の学芸員や事務の方、そして市民の方々など、立場によって美術館への思いが異なる人たちと接することで、美術館を取り巻く環境を実感しました。 

吉田:学芸員になって良かったと思うことは何ですか。 

小野さん:ずっと夢だったので、常に美術について考えられる環境にいられることが一番嬉しいです。また、自分が受け取ってきた美術の面白さを、来館者やワークショップに参加する子供たちに伝える側になれたことも大きな喜びです。 

田中:逆に大変なことは。 

小野さん:知識と経験の不足を痛感することです。保存管理に限ってみても、作品の素材や状態に応じた適切な管理方法を検討したり、気候変動や設備の老朽化といった課題に対応したりするためには、常に知識をアップデートし続ける必要があります。 

 昨年12月には市民向けの講座を担当しましたが、自分の研究内容をいかに市民の方へ分かりやすく簡潔に伝えるかという点が非常に苦労しました。 

美術講座の様子(小野百合香さん提供)

資格取得への道のり

吉田:人文学部にも心理・人間学プログラムに芸術学という領域がありますが、なぜ教育学部の美術科を選ばれたのですか。 

小野さん:私は元々絵を描くのが好きで、美術史だけでなく制作にも関心がありました。高校時代は美術部に所属して油絵を描いていましたね。この頃から安定して美術に関わる仕事に就きたいと考えており、美術館の学芸員への志望を意識しました。

教育学部には日本画や彫刻といった実技をはじめ、美術史、美術教育など、各分野を専門とする先生が在籍していたため、広く学んでみたかった自分に合うと思い、教育学部を選びました(美術教育専修の詳細は教育学部HPを参照)。教育学部の卒業要件として教員免許が必要だったので、教職・学芸員課程・副専攻(文化財学)の3つを並行して進める非常にハードなスケジュールでした。 

田中:博物館実習はどちらで行いましたか。

小野:地元の山形美術館で6日間実習しました。当時はコロナ禍だったため、施設の感染症対策を学んだり、収蔵品の作品調書(状態や来歴などを記すカルテのようなもの)を作成したりしました。また、来館制限があったため、展示室内でのダンスパフォーマンスをYouTubeで配信するための撮影業務も担当しました。それらは貴重な経験となりました。 

進路と就職試験へのアドバイス 

吉田:学芸員の就職は募集が少なく狭き門だと言われていますが、進学や就職の際に成功した秘訣はありますか。 

小野さん:進学にあたって、大学院では学部生の時と同じ教員に師事しました。私の興味関心をよく理解してくださった先生への信頼もあり、引き続き指導いただきたいと思ったことが理由です。試験では英文読解と自身の専門分野についての勉強が、そして面接では「研究の見通し」をしっかり立てておくことが重要でした。学芸員の採用試験については、専門試験(美術史や博物館学など)を重点的に、公開されている過去問などを用いて自習しました。

美術館が持つ意義 

吉田:元々美術館に行くことは好きでしたが、最近は来館者の方が多く、立ち止まって鑑賞できない展覧会に関しては画集や展覧会図録を見れば十分ではないか、と思うようになりました。美術館を実際に訪れることの価値はなんだと思いますか。 

小野さん︰画集や図録は、自分の知っている作品を見るために購入することが多いと思うのですが、美術館に行くと「予期せぬ出会い」があります。たまたま目に入った作品が気に入ったり、それまで興味がなかった作品が、実際に観ると魅力的だったり、そんな発見が楽しいなと思います。また、インスタレーションのような空間全体を使う作品は、その場に身を置いて五感で感じることでしか得られない魅力があります。 

田中:これからの社会における美術館の役割をどうお考えですか。 

小野さん:作品を数百年先の未来にまで守り伝えるという基本的な機能に加え、多様な表現やものの見方、価値観に出会い、それを認め合える場であることが大切だと思います。美術作品との関わり方は正解が一つではないので、それぞれの考え方や感じ方が尊重され、認められる場としての美術館のあり方を今後も考えていきたいです。

おわりに:学生へのメッセージ 

小野さん:自分の好奇心や熱量を大事にして、いろいろなものにアンテナを張ってみてください。学芸員は業務の幅も広く、多様な面白さのある職業だと思うので、夢を叶える選択肢の一つとして考えていただけたら嬉しいです。

田中・吉田・関:本日は、どうもありがとうございました! 

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