外国語科目の選択を考える~新潟大学語学案内 第4弾「英語―ひいては外国語学習」

英語学の島守です。語学案内第2弾では英語のうち、1年次で履修する必修英語をリポートしました。本稿はその続編です。私の履修経験と外国語教育学の知見をもとに、どのような学習ができるかを考えてみます(こんだけ勉強したんだなーと懐かしさに浸りながらまとめています)。選択科目としての外国語科目の履修を検討する際に、ぜひ参照してください。

[問題設定]人文学部と外国語科目の履修

人文学部の学生は、必修科目に加えて選択科目を少なくとも1科目履修する必要があります。人文学部のカリキュラムでは、外国語科目は「初修外国語」と「英語」で構成されています。卒業要件単位数について、外国語科目全体では12単位ですが、「初修外国語」は8単位、「英語」は2単位とされています。

つまり、必修科目だけでは外国語科目の単位数をクリアできないということです。初修外国語のインテンシブ(8単位)が大きく、自分で選択して履修する単位の存在を忘れないように気をつけなければなりません。

RQ:外国語科目の2単位分は自由に選択できるが、有意義な選択をするために、学生はどのような点を検討すればよいか。

[分析]人文学部で外国語を学ぶポイント

必要単位数の取得とは異なる視点で考えてみます(外国語教育のキーワードを少し登場させます)。人文学部に在学中に継続して外国語を履修することで、意義があると思います。

専門分野の学修・研究の充実化

上述してきた外国語科目は、外国語運用能力を伸ばすための、いわゆる「語学」1です。一方、高年次になれば専門分野の学修・研究を行っていきますが、そこで外国語が使えると学問の幅が広がります。

例えば、英語で行われる講義に出席したり、英語論文を講読するゼミに参加したりすることができます。西洋文学の分野であれば、原文テクストを読む機会があるので、1年次で外国語の初級文法を習得済みであることが履修要件とされていることが多いです。私の場合、これまでに英語で行われる講義を3つ履修し、2年次後期と3年次後期にはフランス文学を読む演習に参加しました。

さらに、卒業論文において、論文を英語で執筆したり、文献を英語で探したりすることがあります。心理学など、分野によっては英語で書かれた論文(国際ジャーナル)の方が多いことがあります(例えばこの記事)。

資格・検定に向けた学習の促進

外国語の資格・検定を受験することで自身の外国語運用能力を知ることができ、進路を考えるうえでの一つの材料にもなります。IIBCのパンフレット (2025) によれば、一般企業などへの就職において、「7割以上の企業がTOEIC Programを採用」しています。また、島田・他 (2024) によれば、TOEICスコアが就職活動の際に影響を与える業種として、「メーカー、旅行・ホテル業、情報・通信業」などを挙げています。人文学部HPで公表されている就職状況と対照させると、該当する「サービス」及び「運輸・情報通信・マスコミ等」は併せて35%を占めています。すべての業種とは言えませんが、営業職や対人コミュニケーションを伴う業種では求められるスキルに含まれていることが考えられます。

教員採用試験でも近年、変化があります。英語科に限らず、あらゆる採用枠で公的検定試験の結果による加点制度を取り入れています。宮城県では2025年度に実施する採用試験より、TOEFLやIELTSのスコアを提示することで、実技試験が免除されるようになりました。大学院の入試でも(分野を問わず)スコアの提出が求められる場合が多いです。

留学における語学学校のクラス分けでは、TOEFLやIELTSなどをCEFR (Common European Framework of Reference for Languages: ヨーロッパ言語共通参照枠) に参照させて、診断的評価2 (diagnostic assessment: 学習前のレベルを確認し、クラスやプランを設定するための評価) として利用する場合があります。留学先の大学の授業料が段階的に免除される条件において、スコアを利用する大学があります。

もちろん、全てのケースで通用するテストではないので、目的によって受験するテストの妥当性 (validity) は異なります。しかし、このような特性を知っておくことで、進路を考えるきっかけにもなると思います。

大学生だからこそ・・・

外国語の授業を通して、人脈が広がるかもしれません。新潟大学の場合、外国語の授業は比較的少人数です(筆者が受講したクラスの最少人数は学生2人です)。かつ、基本的に学部・学年の制限がないので、多様な分野・年齢(・時には国籍)の学生と交流することができます。

教授法の観点からも、タスク準拠学習3 (TBL: Task-based learning) やコミュニカティブ・アプローチ (Communicative approach) を採用していることが多く、やり取りの型 (interaction patterns) を変えながら、ペアやグループ活動を取り入れます。これにより、学習者がクラスの中で外国語を使う頻度が多くなるというメリットがあります。もちろん、受講における追加料金(教科書費を除く)がないことも、大学生だからこその特権です!

[実証]外国語科目の履修例

では、実際の履修例を紹介しましょう。[表1]では筆者:私の履修経験を「英語」と「初修外国語」に分けて示しています。

英語初修外国語
1年次前期フランス語インテンシブⅠA/B
1年次後期TOEFL iBT Preparation
アカデミック英語入門R/L
フランス語インテンシブⅡ
2年次前期中級コミュニカティブ英語コミュニケーション・フランス語D
ラテン語ベーシック
ギリシア語ベーシック
2年次後期IELTS Preparation Ⅱ
実践英語セミナー
コミュニケーション・フランス語G
3年次前期TOEFL iBT Preparation Ⅱ
英語表現セミナーA
中級EAP (Listening and Speaking)
コミュニケーション・フランス語B
3年次後期上級コミュニカティブ英語フランス語セミナーB
4年次前期フランス語セミナーA
4年次後期上級コミュニカティブ英語コミュニケーション・フランス語
[表1]筆者の外国語科目の履修

自分なりに主軸を定めて学習計画を立てています。専門分野の研究だけでなく、将来のキャリアを考えて、継続的に外国語に触れながら使えるようになりたいと思っていました。その手立てとして、face-to-faceの授業を毎学期1科目ずつ登録するよう心がけました。また、なるべく人数の少なそうな科目にアプライすることで、自分の発言する時間を必然的に増やすことができます。

3年次前期は「英語」の科目数が多かったのですが、これは8月にIELTSを受験するため、いわば強化期間でした。自主学習(後述)に加えて、Speaking (conversation) 中心のTOEFL Class、Writing中心の英語表現セミナー、Listening中心の中級EAPを履修しました(Readingは…ゼミや読書会で英語論文を読むので、それで代替)。

「上級コミュニカティブ英語」などの一部の外国語科目は同一教員・同一シラバスでなければ重複履修をしても卒業要件単位数にカウントされます。また、同一科目名でも内容や重点事項は異なるので、シラバスを熟読することが大事です。

この履修は単なるプロトタイプであり、欠点もあります。検定試験はIELTSと仏検(2年次前期)を受験しましたが、もう少し回数を増やして定期的に能力測定を実施して効果を確認すべきでした。論文を英語で執筆する分野に所属しているので、EAP4 (English for academic purposes) 講座でより集中的にWritingを練習したかったとも思っています。

[提案]外国語学習の履修を考える際の要点

外国語を学習する目的を明確にする

外国語を学んだ先に、どのようなことができるようになりたいかを考えます。「学内にいる海外の学生と流暢に日常会話を楽しむこと」だったり「英語での論文執筆に向けてまとまりのあるテクストを書けるようになること」だったり「IELTS7.0でオーストラリアのワーキングホリデーにアプライすること」だったりなど、ゴール地点はそれぞれ異なります。

目標を定めることで、学習期間学習形態(自主学習かマンツーマン指導か、など)・学習技能(読むこと・聞くこと・書くこと・話すこと(やり取り/発表)の5技能)・学習に用いるリソース(CALL教材や映像メディアなど)具体的な学習計画を立案することにつながります。

基本事項を確認する

どの学習をはじめるにしても、既習事項を確認することで自身の実態を知ることができます。高等学校で使っていた参考書や初修外国語の授業で配布されたハンドアウトなどを一通り読むことが一つの方法です。

英語であれば、江川 (1991) の『英文法解説』や全学英語の教員が作成した『新潟大学全学英語ハンドブック』を推奨します。特に後者は、元人文学部所属の秋孝道先生が中心に執筆されました。学校文法では定番の「5文型」や「目的語」といった用語を使わずに、文法の特性を統一的に説明されているのが特徴的です。

第3章「基本文法」 冒頭抜粋
 この章で解説されている基本的文法知識は、英語の総合力を高めて行く際に、その基礎となるものです。一度全体を読んで、未習得の項目をチェックし、第1セメスターが終了するまでに再確認の作業をしておくことを希望します。また、このような基本的文法知識は、TOEICなどの試験で問題として出題されることが少なくないので、アカデミック英語や基礎英語の予習復習でも、文法事典としてこまめに参照して下さい。解説の中の「付加情報」の項目は、大学英語の範囲を超えるものかもしれませんが、有益な情報であるので覚えてお くと良いでしょう。「基本文法」では、文法項目が列挙されているので、どの項目から参照しても構いませんが、最初に必ず「1「基 本文法」の説明方法と用語」を熟読して下さい。(23ページ)

また、新潟大学で使用できるCALL (Computer-assisted language learning) 教材にはプレイスメントテストの機能も搭載されています。CEFRも表示されるので、検定試験の受験前と後の得点変化を観察することができます。

担当教員と相談する

授業を履修するのであれば、担当教員に自分の外国語学習について話すことが大事です。目標や不得意事項などを初回で伝えておくことで、授業のコンテンツを調整してくれることがあります。私の経験上、少人数であればあるほど、柔軟に取り入れてくれることが多いです。

また、私が履修したIELTSの授業では学生一人ひとりとSpeaking Practice Testを行い、アドヴァイスをくれました。教師としては、学習者の状況を少しでも知っていれば、個に応じた指導が実現するのです。

評価しながら継続的に取り組む

自分の時間割が許すのであれば、なるべく継続して履修したいところです。学期が変わるごとに目的を見直し、別のコースを履修することも可能です。私の場合、4年次前期は大学から離れていた期間が長かったため対面で受講する英語の授業を履修しませんでした。そして、前期終了後、ある試験で課されたスピーキングテストで英語力の衰えを感じました。少し外国語から離れると知らぬうちに自分から抜けてしまい、いざ必要!と言う時にすぐに回復できません。私もまだまだです。

もちろん、大学の授業を履修せず、他のコンテンツを使ってみるのもいいと思います。ただ、先に述べたように、大学が提供する授業のメリットはありますし、授業時間に加えて授業時間外の学修時間(予習・宿題)を考慮すると、少なくとも週に2~3時間は自分の身を外国語の環境に置くことになります。外国語学習で重要な継続性が担保されます5


外国語科目に限らず、「自由選択」の場合、大量の選択群の中から決めるという点で、選択に迷ってしまい、後から「我は何をしたかったんだ?」と思ってしまう―なるべく避けたいところです。選択をする前に自分の主軸となるような計画・準備(4.1~4.3節)が物を言うでしょう。そして、次の段階へつなげられる(4.4節)と学習経験が活かせます。

今回は人文学部のカリキュラムの仕組みと実際を踏まえて、それに学習理論をちょっと加えて論考してみました。ここで提示した例は筆者一人のものであり、外国語(言語一般)に関心を持っているので、提案の質に多少のバイアスがあることは否定できません。今後は、人文学部生の傾向を量的に把握したり、学生の個別のケースを取り上げたりして、リポートできればと思います。

  1. 本稿では、「言語学」との混同・誤解を避けるため、「外国語学習」と表記します。 ↩︎
  2. 学習前のレベルを確認し、クラス分けやプランを設定するための評価。最終的な成績・評定を算出する総括的評価 (summative assessment) とは異なります。 ↩︎
  3. (実生活に近い)課題をグループやクラスで協働解決していく中で、必要な言語知識を習得したり言語運用の練習を取り入れたりする指導アプローチ。 ↩︎
  4. 学術目的の英語。これは特定目的の英語 (ESP: English for specific purposes) とも言えます。対して、どの場面でも広く使える英語を一般目的の英語 (EGP: English for general purposes) と言います。高等学校までの英語科ではEGPの習得に焦点を当てています。 ↩︎
  5. これとほぼ同等の機能を有するものとして、いわゆる読書会・自主ゼミが挙げられますが、これは別の記事で取り上げたいです。 ↩︎

引用文献

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