「授業で扱われるもの以外にも触れてほしい」~岡嶋隆佑先生にインタビュー!

心理・人間学3年の熊谷、社会文化3年の村山です。「新任教員インタビュー」として、ベルクソン哲学を専門にする岡嶋隆佑先生にお話を伺いました。

インタビューの中で学びの方法や書籍を紹介していただき、大変勉強になりました。学生は教員からの教えに受け身姿勢になりがちですが、自ら本を読み、探究し、問いや思想を発見していくことが必要という教員の方の言葉は、3 年生の私も身につまされました。

コロナ禍で教員と学生の距離が物理的心理的にも遠い状況ですが、教員の方々の学生や人文学部を目指す高校生への真摯な思いがインタビューから伝わってきます。ぜひ多くの方に 記事を見てもらいたいと思います(村山)。

  • 日時:2021 年 7 月 28 日(水)16:00~17:00 場所:zoom 上
  • インタビュアー:熊谷弘毅(心理・人間学 3 年)村山貴史(社会文化 3 年)
  • インタビュイー:岡嶋隆佑先生(心理・人間学プログラム准教授)

研究内容について

学生:ではまず初めに先生の研究内容についてお願いします。

岡嶋先生:アンリ・ベルクソンというフランスの哲学者について研究してきました。19 世後半から 20 世紀前半にかけて活躍した人です。これまでは主に『物質と記憶』という著作を中心に扱ってきました。知覚や記憶といった人間の認知のメカニズムについての考察を含む本なので、この専攻の学生であれば何かしら関係するトピックがあると思います。

現在は、単著の準備を進める一方で、テクスト解釈と現代的な考察の二つの側面から研究を進めていこうとしているところです。

その他に応用的なテーマとして関心があるのは、ビデオゲームについての研究、とくにゲーム経験がもつ身体的な側面についての哲学的な考察です。

(▲写真:『物質と記憶』の校訂版)

先生のご来歴

学生:ありがとうございます。次に先生のご来歴について、学部生時代から順を追って現在までお願いします。

岡嶋先生:学部から博士課程まで慶應義塾大学で学びました。入学時は理工学部で、当時はコンピュータサイエンスや建築が学べるような学科に所属していたので、漠然とそういった分野で仕事をしていきたいと思っていました。

ただ、入学後徐々に、天文学や数学に関心がシフトしていったんですね。一時は理論物理を学べる専攻に移ろうかと思ったこともあったのですが、同じ時期に哲学的な時間論に触れる機会があり、自分がやりたいのは物理的な理論そのものの研究ではないと気づき、文学部哲学専攻に編入学しました。

その後、学部3 年生の終わりのころだったと思いますが、初めてベルクソンの本を手にしたとき、子どもの頃から漠然と考えていたことと同じ問題が扱われているということに気づきました。最初に通読したのは、『時間と自由』です。この本は、元々は博士論文として書かれたものだけあって、何度か読めば、おおよその議論を追うことができるようにはなりました。

ただ次の著作『物質と記憶』は、本当に何度読んでも全然わからなかったんですね。気がついたら10 年くらい経っていたという状況です。

学生:ありがとうございます。実は私も『時間と自由』についての授業を受けたことがあります。

岡嶋先生:前任の宮﨑先生が扱っていたのをシラバスで見て知ったので、実は今年も継続して演習の授業で読んでいます。

学生:この本はいままで哲学系の授業を受けてきた中で一番難しかったです。

岡嶋先生:昨日ちょうど1学期の授業がラストだったのですが、学生に感想を聞いてみたら、似たような返事が返ってきました(笑)。

担当されている授業とその内容

学生:それでは今の話題に関連して、先生の担当されている授業とその内容についてお願いします。

岡嶋先生:いま紹介した『時間と自由』を読んでいた授業は「人間学基礎演習 A」です。基本的には哲学の基本文献を一冊決めて、学生がレジュメを作成し、学期内に通読するというスタイルです。卒業研究に向けての基礎訓練になるような授業を目指しています。

「哲学概説」という授業も前期に担当していて、こちらは基本的には哲学史の授業です。古代から現代までの主要な哲学者を取り上げて基本的な概念や理論を説明しています。

3・4年生向けのゼミ(「哲学思想演習」)は、古典的な著作をいくつか選んで、レジュメ担当を決め、その理解についてみんなで議論するという形の授業です。今学期にすでに読み終わったのはベルクソンの『笑い』とプラトンの『ソクラテスの弁明』です。今はユクスキュルの『生物から見た世界』を読んでいます。

先生の学生時代

学生:ありがとうございます。それでは次に先生の学生時代についてお願いします。

岡嶋先生:研究ということを意識し始めたのは、学部の4年生に上がるくらいのことでした。それまでは、おそらくいま皆さんがそうしているように、バイトやサークルをしたり、哲学 に限らずいろんな分野の本を読んだりといったごく普通の学生生活を送っていたように思 います。文学部のある三田キャンパスに進んでからも日吉(横浜)に住み続けていたので、 音楽を聴きに行ったり、映画を見に行く機会にも恵まれていたと思います。

教員として少し 珍しいかなと思うのは、修士の頃、民間企業の就活をしていたということくらいでしょうか。博士課程に進学するための資金の目処がたたなければ、就職する他ないと考えていたからです。その後、幸運なことに学振に採用されたので、進学の道が開けました。

学振(日本学術振興会特別研究員)というのは、採用されると生活はできるくらいのお金をもらいながら博士課程で研究をできる、そういった助成制度のことです。ただし採用が決まるのは修士2年の 10 月くらいで、採用率もそれほど高くはないので、完全に当てにするわけにもいかない。だから、就活もやっていたというわけです。

いまの就活の慣習は、年齢の制約があったり、卒業研究の時期と重なっていたりと色々問題含みだとは思いますが、専攻やサークルの先輩と同程度にはアドバイスできるとは思うので、何かあれば気軽に声をかけてください。

おすすめの入門書について

学生:ありがとうございます。次の質問に移る前に村山(学生インタビュアー)の方から聞きたいことはありますか。

村山:村山です。よろしくお願いいたします。現代思想を学ぶ上で必要な本といいますか、入門書としておすすめできるものがあれば、教えていただきたいです。

岡嶋先生:私が関わったものではないですが、最近出た入門書で、『現代フランス哲学入門』(川口茂雄・越門勝彦・三宅岳史編、ミネルヴァ書房、2020 年)という本があります。基本的にフランス限定ではあるのですが、19 世紀から現代までの有名な思想家についての総説をまとめたものです。

辞書的にも使えると思いますが、パラパラとめくってみて自分の関心がどこにあるのかを探ってみるという使い方もできるはずです。こうした本で興味をもった哲学者の著作にまずはチャレンジしてみるのが良いと思います。

翻訳をめくってみて全く歯が立たないようであれば、新書や文庫サイズの解説書から入るのでも全然構いません。ただどの本が良いかは判断に迷うと思うので、その時はぜひ私を頼ってください。

哲学分野を目指す人へメッセージ

学生:では、最後に岡嶋先生の方から、哲学分野を目指す人へのメッセージをお願いします。

岡嶋先生:着任から日が浅いですし、コロナ禍という状況なので、まだ学生の雰囲気を十分に掴めていないかもしれませんが、この一学期の授業を通じて全体としては真面目な学生が多いなという印象を受けました。授業はやりやすいですし、課題の提出率も高いです。

これらは良いことなのですが、その反面、教員が授業で扱ったもの、紹介したものしか読まずに、卒業研究に向かっているようなタイプの学生が多いのではないかなという印象も持ちました。せっかく大学に入って、しかも人文学部に来たのであれば、授業で扱われるものだけでなく、もっと多くの分野に関心をもって欲しいと思います。

本に限りません。科学・音楽・文学・映画等、何でもいいですが、ぜひ色々なジャンルに触れてみてください。そうすれば、学年が上がるにつれて自然と自分の問題関心が定まってくるのではないかと思います。教員としてもなるべくみなさんが多くのトピック・観点に触れることができるような授業・環境作りを心がけていくつもりです。

学生:ありがとうございました。以上でインタビューを終了したいと思います。インタビューに協力していただきありがとうございました。

インタビューを終えて

私自身、哲学専攻なのに教育分野や社会学、生物学に興味が出てきた人間なので、今回のインタビューで先生に背中を押していただいたような気がします。私はいま生物学の、特に進化に関する分野に興味がありますが、ゼミの先生に相談したら、進化に対して哲学的なアプローチをする研究はたくさん存在するようです。読みたい本は読む、行きたい場所はすぐ行く、会いたい人には会う。大学生になるとフットワークが重めになりがちな人が多い気がしますが、自由かつ大胆な行動が自身の可能性を広げるのだなと今回のインタビューを通して再認識しました(熊谷)。

(▲写真:ベルクソンの講義録とその邦訳)

◎岡嶋隆佑(おかじま りゅうすけ)先生

心理・人間学プログラム准教授。慶應義塾大学で博士号を取得後、独立行政法人日本学術振興会の特別研究員 PD を経たのち、2021 年 4 月に新潟大学人文学部准教授として着任。

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