水俣病を考える「フィールドワーク」のすすめ~当事者ではない私たちにできることは何か

社会学分野4年の森本千翔です。今回は社会文化学プログラムの発展講義「フィールドワーク」についてお伝えします。

「フィールドワーク」は新潟と熊本でのフィールドワークを通じて、水俣病のことについてみんなで真剣に考えることができる授業です。

初めは「なんかおもしろそう」と興味半分で受講したのですが、水俣病は思っていたよりもずっと根深く、複雑な社会問題であり、私にとって「フィールドワーク」での学びは、新しい発見とモヤモヤの連続でした。

責任の所在

水俣病は、工場排水によって流出したメチル水銀に汚染された魚や貝などを食べることによっておこった中毒性の神経系疾患です。工場廃液をそのまま垂れ流し続け、水俣病患者の大量発生を招いた企業の責任は重く、管理体制が甘かったと非難の声が上がりますが、同時に国や県の責任も問われました。当時、廃液を止めずに放置したことで、結果的に被害が拡大してしまったのです。他にも国が示した水俣病の認定基準では、患者認定をめぐって現在でも裁判が続いているなど、行政の責任は重大です。

では、なぜこのような問題が起こってしまったのでしょうか。企業や国など、加害の側に立場を変えて考えてみると、見えてきたことがありました。それは、国というシステムであり、後手に回らざるを得ない法制度や責任をうやむやにする政治の在り方のことです。この時もう既に、私の中で水俣病問題は他人事ではなくなっていました。

もし、再び同じような公害問題に直面した時、私たちの社会はどうなるでしょうか。今の政治や法制度なら大丈夫だと自信を持って言えるでしょうか。水俣病の問題は、こういうことについて真剣に考えてこなかった私たちの責任でもあるのかもしれません。問題への無理解・無関心が私たちの意思とは関係なく、当事者を苦しめてしまうことがあるのです。

被害者に寄り添うとはどういうことか

このような無理解・無関心が当事者を苦しめるかもしれないということは、水俣病を知っている人たちにとっても関係のない話ではありません。私たちが勝手に抱いている被害者像を患者に押し付けることで、彼らが不当な差別や偏見に苦しむことがあります。水俣病の症状や程度は人によってそれぞれであり、被害者に寄り添うためには、それを理解することが必要です。

水俣病被害者の支援をしている方から、「患者の痛みを共有したいと思いながら、強要してしまうことに気を付けなければいけない」というお話がありました。それは、支援者が患者になにかしてあげるという無理な押し付け構造ができてしまっていて、患者にとって本当に必要な支援と向き合えずにいるということへの問題提起でもありました。

そしてこれは、被害者に寄り添うとはどういうことかを真剣に考えるきっかけとなりました。私たちだったらどんな寄り添い方ができるのか。私たちだからこそできることはないか。そんなことを考えている今この瞬間にも苦しんでいる人たちがたくさんいるという現状と、どうすることもできない自分たちの無力さとの間で、モヤモヤと葛藤していました。

対話がもたらしたもの

当事者ではない私たちにできることは何か。授業時間外にも先生や学生同士で話し合いを重ね、他大学との合同報告会に臨みました。実際に現地を訪れ、見て、聞いて、自分たちで考えて、なんとか導き出した答えは、「対話をひらく場を創る」ことでした。報告会でワークショップを開いて、みんなで話し合う時間を設けたのです。

この場を通して、色々な意見を持つ人が、それぞれに水俣病を語り、立場を乗り超えて意見が届く場になっていたと思います。ワークショップの最後には、話し合って生まれた言葉を歌詞にして歌いました。若い人からお年寄りまで、みんなで声を一つに歌ったあの時間は、何かすごく大切な意味のある時間だったような気がします。

(▲写真:ワークショップの様子)

考え続けることに意味がある

私たちの「フィールドワーク」では、水俣病の継承をテーマにどうすればこの問題を将来へ語り継いでいくことができるか考えてきました。その為に取り組んできたことのすべてが、本当に正解だったかは分かりません。それでも私たちなりに考えたことは決して無駄ではなかったと思います。抱えていたモヤモヤが完全に晴れたわけではありませんが、それはそのままでもよいのかもしれません。考え続けることに意味があるのではないでしょうか。

「フィールドワーク」を通して、本当に多くの人との出会いがあり、その中で多くのことを知りました。私は受講する前までは、水俣病について詳しく知らないことが多かったですし、そこまで関心を持っていたわけではありませんでしたが、この問題と真剣に向き合うことができるようになりました。振り返れば、もちろん大変なこともあったけれど、それよりも楽しいことの方が多かった気がします。

興味を持った人はぜひ「フィールドワーク」の受講を考えてみてください。

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