文献から古代日本語の特徴を探る~ゼミ訪問「古代日本語論・磯貝ゼミ」

日本語学・日本文学分野2年の半澤和奏です。今回の「ゼミ訪問」では、言語文化学プログラムの日本言語文化分野のうち、古代日本語論を主題にする磯貝淳一先生のゼミを紹介します。とても和やかな雰囲気で、学年の枠を超えて積極的にディスカッションが行われており、日本語の変遷や、古代の日本語の特徴を探りたいと考えている人にはおすすめのゼミだと感じました。

『注好選』を用いた日本語研究

このゼミでは、変体漢文で書かれた説話集『注好選』(東寺観智院蔵、仁平2年写本)の資料読解・言語的特徴の把握を行い、平安時代後期から院政期にかけての日本語の特色の理解、研究上の問題点の検討を行います。また、授業の初めには「日本語の歴史を研究する意味」についての「3分間スピーチ」が設定されており、プレゼンテーション方法や学びの意味を自覚化する方法について考え、発表や討議に活かす力を養うことができます。

授業は発表者の資料を読み、グループ内で資料に基づきながら当時の日本語の特徴について検討し、質疑応答という流れで進んでいきます。資料は読解編と研究編に分かれています。

この日は『注好選』巻上35丁裏4行目からの文について、グループで検討が行われました。読解編では、「思惟ラク」の読み方について、研究編では、『注好選』における「中(なか・うち)」の用法について、読み方はどのような基準で区別されるのか、その基準は誰目線でのものなのか、などの質問が挙がり、全体で検討がなされました。

授業の最後に磯貝先生から、辞書は実際の具体例を基に意味を分類したものであり、研究の際にはその記載を参考にしつつ、自らが意味の特徴を考えることが大切であるというお話がありました。このお話を聞いて、私も授業で辞書を扱う際には、使い方に注意し、有効に活用していきたいと感じました。

この授業に参加するために必要な条件を磯貝先生に尋ねたところ、「日本語の古典文法の知識を持っていることを基本として、専門基礎講義(日本語学概説A・B)、基礎実習(日本言語文化実習A・B)、基礎演習(日本言語文化基礎演習A・B)の履修が必要となります。」とのことでした。ゼミの前準備として、2年生から受けることができる、概説や実習の授業への熱心な取り組みが大切であることが分かりました。

担当の磯貝淳一先生より

「『日本語の歴史』研究は、遠く過ぎ去った過去のこと・自分とはあまり関わりのないことを学ぶ学問、というイメージを持っていませんか?私は、歴史研究は私たちが生きる『今』をより深く知るために必要となる学問だと考えています。過去の事象を過去の事として学ぶのではなく、今ここにある状況がどのようなプロセスを辿って今ある形となり、どのような要因によって方向付けられてきたのか(そしてそれはこの後どこへ向かうのか)、『ことば』を通じてそれを知るための方法を考えるゼミです。研究を通じて手に入れるのは、案外今の自分のことなのかもしれません。」

「平安・鎌倉期の文献読解・研究がゼミの中心的な活動になりますが、それ以外にも様々な活動を行うのが我がゼミの特色です(研究発表会、ゼミピクニック、お茶会やパーティー、ゼミ旅行など)。単なる遊びではなく、すべてがゼミが目指す目標に近づくための活動です!」

受講者に聞いてみました

➤ このゼミを選択した理由をお書きください。

  • 日本語の文法や歴史的変遷に興味があったから。
  • 教職課程を並行して取っており、磯貝先生が国語教育に関する研究も行っていたため、自分の興味に加えて教職についても学べそうだと思ったから。
  • 2年の時に行った実習の授業で磯貝ゼミの内容に触れ、古辞書を用いて漢字の読みを決定していく工程に面白さを感じたから。

日本語の文法や歴史的変遷に興味を持つ人が多いですが、教職関係においても活かせる部分があるようです。また古辞書については、この分野以外ではなかなか触れられない辞書だと思うので、発見もたくさんありそうです。

➤ このゼミで、どのようなことを学んでいますか?受講する前と後で何か変わりましたか?学修の取り組み方や困難、雰囲気(イベント)など、思うことを色々お書きください。

  • ・平安時代の説話集『注好選』を用いて、当時の日本人が日本語をどのように使用していたのかを研究しています。ゼミはとても和気藹々とした雰囲気で、先輩も先生も親身になって教えてくれます。
  • ・日本語の歴史について学んでいます。磯貝ゼミを受講していて難しいなと思うことは、当時の人の音声が残っているわけではないので、文献だけから漢字の読みについて推定しなければならないことです。
  • ・自分自身で問いを立てることの難しさを感じます。2年生までは、その文字の読みについて詳しく調べることがメインでしたが、ゼミでは、そこからさらに、自分で問いを立てて調べていくと言う点が、難しくもあり、面白さでもあると思います。 また、ゼミピクニックや卒業旅行があり、雰囲気が良いこともゼミの魅力です。

自分自身で問いを立てることが難しさでもあり、ゼミの面白さでもあるようです。また多くの人がゼミの雰囲気が良いと書いてくださっていました。ゼミピクニックや旅行など、授業外でのつながりも多いことが、和気藹々とした雰囲気につながっているのかなと感じました。

➤ 今後はどのようなことを学んでいきたいですか?卒論や修論は、どのようなことをテーマにしようと考えていますか?将来に活かしたいこともお教えください。

  • ・日本語の歴史を勉強して、大学院に進学する。
  • ・卒論では、『色葉字類抄』という、平安時代頃に成立した国語辞書についての研究をしています。 また、ゼミ内には国語の教職を目指す仲間が数名いるので、実習のことを報告したり、先生にも国語の授業についてご指導いただいたりしています。将来、日本語の専門知識だけでなく、国語教育について学んだことも活かしていきたいです。
  • ・今季の発表で変体漢文の敬語について取上げておもしろかったため、卒論でも敬語をテーマにしようかなぁと思っています(未定ではありますが)。また、今ある情報から些細なことでも疑問をもち、研究のテーマを見つけ出すという課題発見力や、種々の資料から必要な情報を収集し、比較・分析をすることで傾向を見出すという情報収集力・分析力は仕事でも役立てることができるかなと思います。

卒論は、『色葉字類抄』や変体漢文の敬語など、古代の日本語に関連したテーマにする人が多い印象を受けました。ゼミの学習を、大学院への進学や教員に活かそうと考えている人もいるようです。また、ゼミで得た課題発見力や情報分析力などは、日本語に関わる分野に関わらず多くの仕事で活かせそうです。

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