スクラム,組もうぜ!~人文学部の学生と教員でUgo研究

言語学の島守です.本稿は人文学部の学生・教員で協働したフィールドワークについて報告します.ここで紹介するアクティビティは,必要と疑問を糧として最適な手段を選択して課題を解決するとともに,フィールドスタディに必須な能力を実践的に学ぼうとするものです.身近な場所の観察から得られる気づきは,異分野協働(融合:Ugo)研究へと発展しうる初期シーズとなります.多様な専門領域が共存する新潟大学人文学部だからこそ実施可能な協働研究があることを(所属・分野問わず)読者のみなさんに知っていただきたく,大学近くの気候景観を対象とした現地調査の一端を紹介してゆきます.

調査の概要:大学近くの神社には五十嵐の豊かな気候景観が保存されている

新潟大学五十嵐キャンパスは,平安時代頃に形成された砂丘の上に立地しています.風によって運ばれた細粒な砂が積み重なって形成された砂丘の上には,潮風や乾燥に強いマツが多く分布しており,よくみると一定方向に偏形していることが分かります.五十嵐キャンパス付近でよくみられるマツは偏形樹と言って,日本海側から内陸へと強く吹く風を反映した形状を有しています.白砂青松という言葉にも,五十嵐という地名にもあらわれるように,目に見える景色をよく観察すると,様々な地理的な特徴が捉えられるのです.

偏形したマツがつくる美しい景観は時代と共に失われつつあります.過去80年間に撮影された航空写真をみてもわかるように,五十嵐キャンパスの周辺では宅地化が進んでおり,耕作地だけでなくマツ林もだんだんと少なくなってきています.このような環境変化は,高度経済成長期以降に化石燃料を使用する暮らしが普及したことと関連しており,五十嵐に限らず,この実態は,新潟大学五十嵐キャンパスが整備され始めた頃からデータを取得している人工衛星LANDSATのデータを解析してみるとよく分かります.

上空から五十嵐キャンパス付近を俯瞰すると,神社のある場所だけは長らく森林植生が維持されているのがわかります.これは社叢(社寺林)と呼ばれる植生分布を意味し,境内を囲むように樹木を管理することで神聖な領域と私たちが暮らす世界を区切る役割を果たしています.人間による過度な伐採を免れる社叢には,地域特有の貴重な生態系が存続しています.つまり,社叢をよく観察すれば身近な場所を特徴づけている自然環境の豊かさが垣間見えると考えられます.

そこで,私たちは,大学近くの若宮神社を対象に偏継樹の形状を測量し,身近な自然環境について考えてみることにしました.

▲測量機材を準備しながら先生方から調査行程の説明.

調査の様子と結果:さあ,フィールドへ!

はじめに,調査実施の記録を以下に示します.

  • 調査日時:2026年6月6日(土) 10:30~17:30
  • 調査場所:若宮神社(新潟市西区五十嵐2の町)
参加者所属部局所属学位プログラム専門分野
太田人文学部・助教(研究統括機構 兼務)社会文化学プログラム自然地理学
人文学部・准教授社会文化学プログラム考古学
前沢現代社会文化研究科・M2(社会文化専攻)日本中世史
島守総合学術研究科(人社系)・M1人間文化科学プログラム言語学・英語学
宮藤人文学部・B4社会文化学プログラム村落社会史
成田人文学部・B1(人文学科共通)
[表1]調査参加者と所属の概要

(筆者島守は人文科学の教育・研究のアウトリーチに従事してきた経験から,今回の調査活動に参加しました.詳細は,拙稿「人文学部の今を発信する学生団体「人プロ」の活動」(報告発表)を参照してください)

若宮神社は総合教育研究棟から北西に向かって5分ほど歩いたところにあります.今回の調査では,境内に生育する108本のマツを全て測量しました.学生たちは最初に太田先生・森先生から測量方法とその仕組みを教えてもらいながら実際に測量を行いました.午後になるとテンポよく測定が進み,1日で全ての樹木を調査することができました.

境内に分布する樹木の位置はトータルステーションを用いて測量しました.この機材は,レーザー測量計とセオドライト(角度計)が合体したものです.基準となる地点に対する測定対象の距離と角度を同時に測定していくことで,樹木の位置データを地図上に投影するのに必要な座標データが獲得されます.

▲トータルステーションとプリズムポールを用いた位置の測定(担当:森・前沢・島守).

樹木が傾いている方向と角度は地質調査で使用されるブラントンコンパスで測定しました.ブラントンコンパスは蓋に付いている鏡で目標物を捉えながら方位目盛を読み取ることができる機材ですが,複数人いる場合は効率よく測定を進められます.

▲スマートフォンのコンパスを活用して樹木の偏形方向を測定(担当:太田・宮藤・前沢).

最近のスマートフォンにはブラントンコンパスと同じ機能が搭載されているので,取得したデータに誤りがないか,検証することもできます.高価なコンパスを持っていなくとも,使い方を覚えれば誰でもデータを現場から獲得できますね!

▲コンパスを用いて樹木の偏形角度を測定(担当:太田).

樹木の偏形程度が強風を受け続けた時間に対応しているのかどうかを検討するために,樹木の年齢を反映する樹木の胸高直径も測定しました.みんなで協力して計測していく過程では,樹皮上に生息する昆虫や落雷の痕跡が観察されました.

▲巻き尺を用いた胸高直径の測定(担当:宮藤).

今回の調査では,神社境内のマツが日本海側の気候を反映して概ね東の方向に偏形していることが分かりました.自分たちの手で獲得したデータを読むことにより,文字や写真として残された資料だけでは理解できない地域の姿を捉えることができました.今回のアクティビティのゴールは投稿論文にまとめて成果公表することとしています.学生たちは太田先生からテクニカルライティングのイロハを教わりながら,時間と労力を単なる思い出として消化させるのではなく,成果として昇華するために必要な真の強さを実践的に学んでいるところです.

参加者との事後座談会

6月23日に,今回の調査参加者が集まって事後座談会を実施しました.調査結果の概要を共有することに加えて,異分野協働研究と言える今回の研究活動に関して意見交換することが目的でした.本節では談話の様子を掲載し,次節では今回の研究活動の特性を参加者の声から検討します.

▲測定データの記録(担当:成田).

今回の調査に参加して,最も印象に残った発見や学びは何でしたか?

前沢:私の専門分野である歴史学では古文書を読み解くのがメインなので,外に出て何かすることはほとんどないですね.卒業論文では,静岡県の白須賀にあった宿場町について史料を精査し,中世の白須賀宿がいかなる背景・展開を以て近世東海道宿の1つに指定されたかという点を検討しました.大学院では,白須賀に存在した湊について検討を深め,この湊が明応7 (1498) 年に発生した南海トラフ地震によって被害を受けて機能を喪失し,湊の痕跡が周辺の地形変化とともに焼失した可能性を論じました.この成果は昨年度に『災害・復興と資料』という刊行物の論文として公表しました.さらに史料から推定された地形の変化を検証するためには地質調査が必須になります.私の研究に関心をもってくれた太田先生と異分野協働研究を始めたところです.おかげさまで,太田先生と協力して申請した研究助成金が採択されたので,掘削調査を今年の秋から始められる段階まで進みました.これまでフィールドで何かを研究することはほとんどなかったので,野外調査の技法などを事前に学べたことがよかったと思います.

:太田先生に今回の調査計画を伺い,強い関心を抱き,ぜひ関わりたいと考えて参加・協力を決めました.私は工業高専の出身でして,その時の卒業論文で,歴史的街道周辺の松並木というマツを対象にした生育環境の研究をしました.今は考古学の研究をしていますが,元々樹木に対する関心はあったので,今回の話をいただいたときに「そういえば身近にこういう環境があるんだな」という新たな気づきがありました.あと,私は,計測した若宮神社の周辺に2年間ほど住んでいました.言われてみて改めて気づくというか,見ようとしないと見えてこない部分があるのだと感じました.ということで,バックグラウンドとしての関心もありつつ,身近にある風景が学問的に色々研究できる対象だということを認識したという,その2点が印象深いことですね.

太田:新潟大学は地理情報システム (GIS) のアカデミックライセンスを取得しているので,私たちは恵まれた学修環境で自由闊達に研究が遂行できます.ただし,その操作方法をいくら丁寧に教えることができたとしても,適切な手段をもって必要なデータを現場から獲得できなければ,研究はうまく進められません.恵まれた学修環境とリソースを活かすためには,実践的に学んでいくことが求められます

教員と学生がフィールドで一緒にデータをとる経験が有効だということは,考古学分野の実践がとても参考になります.古墳の調査では,教員・学生ともに泥まみれになりながらフィールドでデータを獲得します.必要なデータを得るために様々な機材を使いこなして測定する過程で,学生は「こういう時はどうすればいいか」と考えることとなり,周りの人と対話を重ねながら実践する習慣が身につきます.私は,考古学分野の実践に着想を得て,今回,意欲的な学生さんと共に研究をすることにしました.

嬉しいことに,私は新潟大学に着任してから研究に意欲的な学生さんと対話を重ねる機会に恵まれています.この出会いを活かして,教員と学生が共にたのしく研究に励んでいけるような場づくりができたらなと願っています.

宮藤:やっぱり印象に残ったのは雷が落ちたマツを見つけたというところです.つまり何が言いたいかというと,野に出てみると思いも寄らないことを見つけることがあります.そのことをまず伝えたいです.特に私みたいに民俗学的な手法を使って研究する立場からすると,人が生活しているところにどこでもネタは転がっているというところは1つ強調していきたいなと思います.そして,学際的なところで言うと,計測に色々な手法があるのだなというのを知れたのが一番良かったと思っています.森先生が操作していた計量機器は,私も写真で見たことあったのですが,実際に使っているところを見たのは初めてでした.実際に現地調査をしていると「こういう時にこれは使えるのではないか」というアイデアが膨らみますよね.やっぱり,それこそが今回の大きい学びだったなと思います.

成田:一番印象に残っているのが,実際に現地に行って調査ができたということです.中学・高校では教室で教科書を見てみんなで勉強するという学び方しか体験してきませんでした.まだ大学に入学して2ヶ月ほどしか経ってないので,実際にどうやって研究していくのか,どうやって学問に関わっていくのかというのがまだ全然分かってない状態でした.しかし,今回お話をいただいて,実際に違う学年の人や先生方と関わりながら学問をして,現地で気づいた小さなことについて話を交わす体験が,これから自分が研究していくことを考える中でプランが広がりました.色々な異なる視野が手に入ったという点ではすごく貴重な体験をさせていただいたなという気持ちです.

▲座談会の様子(於:総合教育研究棟).

今回の経験を研究や教育活動にどのように活かしていきたいですか?

前沢:私は,日本中世史,特に鎌倉時代から戦国時代あたりの陸上交通を研究しています.少し難しい話をしますと,陸上交通史の研究は,早くは戦前から,鎌倉幕府による宿駅整備や戦国期武家領主による伝馬制度といった点の解明が行われてきました.ですが,1950年ぐらいで限界が来たと言われている分野です.というのも,そもそも史料があまり残ってない分野なのです.道というのは当たり前にあるものなので,前述の例を除いて,何か非常事態が起こらないと記録されることがほとんどありませんでした.今でも災害が起こると,「通行止め」などの形で道は表舞台に出くるものだと思います.また,新しく道ができたときくらいでしょうか.このようなことは古文書でも同じで,中世における道の記録はほとんど残っていません.しかし,このような状況を打破したのは異分野との交流でした.考古学では,早くから中世の道と思われる遺構が各地で発掘されていたようで,長らく研究が停滞していた歴史学の側は,この成果を積極的に取り込もうとしました.この取り組みによって,分野を越えた協働研究が各地で行われるようになり,中世陸上交通史の研究は飛躍的に進歩するに至りました.その過程では,古文書の内容と考古学の遺物との対応関係が明らかになった事例もありました.その甲斐あって,今では道の研究をする際に,発掘調査の成果を取り入れることが当たり前になってきています.

つまり,自分の分野で限界が来ても,他の分野との協力によって,可能性が広がるところがあるということです.他の分野との協働によって,何かしら限界を打破できるというか,何かしらの新しい視野が得られると思います.

:考古学分野では,夏休みの期間に遺跡の発掘調査を中心とした野外実習を毎年行っていて,この数年は私が担当しています.考古学の場合だと,従来では地面の下の現象のみを扱うという視点で考えていました.けれども,昨年から太田先生と協力しながら,同じ地域で違う視点も含めて情報を取っていくことが可能になりました.以前から色々考えてはいましたが,他の分野の人たちも,例えば考古学実習に何日間か参加する,あるいは,見学に来てもらうことも計画していきたいです.「隣の部屋の人はどういうことやっているんだろう」というのをただ喋るだけではなくて,もう少し踏み込めば,実は色々な視点が得られるのではないかと思っています.加えて,5月30日に発掘調査の報告会をして,アンケートの結果を見ていると,「聞き取り調査はやらないのか」といった民俗学的な視点に関して何人かのコメントがありました.地元の人からそういう声もあるので,積極的に他の分野とも関わりたいなと考えています.

太田:私も森先生と同じ問題意識をもって人文学部で教育と研究に従事しています.教員紹介記事でご存知の通り,私は,解決しなければならない課題に対して最適な手法を選択して,実践的に,同僚と対話を積み重ねながら研究を進めています.いま目に見える地形がなぜその形状であるかを明らかにするには,関連分野のことも理解しないといけないからです.

新潟大学が掲げているビジョンに象徴されるように,必要な知見を積極的に取り入れて研究を前進させるのが現代科学です.異分野間での交流がブレイクスルーで有効なことは,様々な研究成果から示される通りです.柱とする学問分野を深める過程で,同僚との対話を大切にしていきたいですね.

私は興味のある人がいれば色々組んでやりたいというスタンスでいます.今回の成果は,対外的には地理学の論文として公表されるわけですが,実際には人文学部で総力を尽くしたものです.私たちの実践が,人文学部で異分野協働を積極的に進めていく契機となったらよいなと思っています.

宮藤:私は入会地における林野管理の研究をしています.私の研究視点は,前沢さんとはある意味で逆です.というのも,入会地の研究はそもそも法学・地理学・社会学・歴史学といった他分野で先駆的に行われてきました.入会地に関して民俗学的な手法を使って研究され始めたのはごく最近で,民俗学における入会地研究の蓄積はそれほどないというところです.現在,私は自分の持っている武器(民俗学)を使って同じ事象(入会地)に対して何が言えるかというところから研究を進めている状況です.研究において前沢さんとは置かれている立場が逆になるわけですね.ですが,たどり着く結論は前沢さんとほとんど同じで,私も異分野との協働によって研究は進む可能性が大いにあると思います.もちろん「この事象はこの分野の専売特許!」みたいなものもありますが,分野にこだわりすぎずに研究することで新たな視座を得ることができると思います.今回の調査で経験することができた異分野の研究方法が,自身の研究にどう活用できるかを考えていきたいです.

また,これは主に人文学部の1年生に向けてのメッセージになりますが,まずは自身が不思議に思う事象やどんなことに興味があるのかを考えてみてください.そしてその事象を検証するためにはどのような手法(分野)があるのかを調べてみてください.複数にまたがっていても構いません.もしフィールドワークをしたいと思う人は,とりあえず町でも山村でも歩いてみて(勝手に本格的な調査は厳禁ですが),少しでも不思議に思ったことをどうしたら解決できるか考えてみてください.そうすれば,自ずとどの分野に行けばいいのかが見えてくると思います.大学の制度上,どこか1つの分野に所属することにはなりますが,事象の検証というところに主眼を置くと,研究が楽しくなると思います.この記事を通じて,異分野協働の可能性が少しでも人文学部生に伝われば幸いと考えています.

成田:私はまだしっかりとしたビジョンはありませんが,今回のフィールドワークやこういった座談会で色んな人の意見を聞くと,生の意見がこれから所属分野を考える上で役に立つなと感じました.フィールド系の内容に興味があるので,自分が研究したいことの主軸を今後見つけて,他分野とどう関わらせていくかを考えていければいいかなと感じました.

太田:勘違いしないでほしいのですが,この実践例をふまえて,「みんなで地理学をやろうぜ!」と主張したいのではありません.みなさんの身近に研究のシーズはあるし,みんなで協力すれば様々なことが分かってきます.新潟大学が提供する研究資源を活用すれば,さらに研究の幅が広がります.私からのメッセージはこれら3つに集約されます.今回の実践例が学生さんたちの進路選択で有用となることを願っています.

参加者の声から見えた今回の調査活動の特徴

前節において,参加者が言及していたことから,今回の調査活動には教育的側面から次の3つの特徴があると言えます.

人文学部での異分野協働研究

▲石塔(現場での発見は次の研究へのシーズになる!)

[表1]に示したように,学年・所属・専門分野の枠を超えて,学生と教員が交流して研究を進めたことに最も大きな意義があります.研究課題の中心は自然地理学にありますが,参加した成員の個々の特性を活かし,各々の立場から発見・経験を得ることができました.例えば,調査方法において,社叢の位置関係の測量には森貴教先生が考古学の実地調査で用いるトータルステーションを利用しました.神社の中に立てられている石塔には日付を含む文字が刻まれていることが分かり,日本史(地域史)の視点からも神社や周辺地域の諸相を知る新たな可能性を見出しました.

もちろん,各人が主に所属する分野の学生同士と共に講義やゼミを履修して学修することも必要です.各分野の土台となる理論的枠組みや分野特有のお決まり事をしっかり深く習得するためには,同じ分野の学生と切磋琢磨することもあります.

しかし,現実・現場に即した課題であればあるほど,「XXXに関する問題はYYY学が解決する」と初めから特定の分野に割り振られているとは限りません.関連分野の人々と対話を重ね,最適な手段を構築し,実践してゆくことは避けて通れないのです.異分野協働は,在学中よりもむしろ,卒業・修了後のキャリアパスにおいて求められる仕事の在り方だと言えます.ある問題に直面した時に柔軟に対応できるようにするためにも,まずは軸となる専門分野を深く理解し,周囲の世界を広く捉えてゆく必要があるでしょう.

身近な地域の調査から発見を捉える

異分野と連携して現実社会の課題に取り組むとは言え,学部生にとっては壮大な話に聞こえるかもしれません.自身の専門分野(XXX学)は現実社会のどの部分と接続できるのでしょうか.

その1つの提案として,身近な地域を調査してみることが挙げられます.野外に出かけて,気になった事象を観察してみましょう.疑問に思ったことはとことん調べてみましょう.もしカタチがあるものならば「測る・量る・計る・図る」ことによって,興味深いオリジナルなテーマが見つかることがあります.まさに「見えども見えぬ世界」に出会うことです.私たちは身近な場所で実践しました.身近な場所をよく観察して謎を解いていくことは研究論文の論理を構築する訓練になります.どのような分野であろうと,オリジナルデータに基づいて既存の理論的枠組みが捉えなおされてゆきます.

フィールドスタディズ以外の分野でも同様のことが言えます.例えば,言語研究であれば,文法書や学術論文から分析のコアとなるデータ(構文や文法規則など)を取り上げることは少なくありません.他方で,言語は人間が日常的に使うものですから,実際の会話やSNSにおける言葉の使い方(言い回し)に着目して疑問を持つことは「身近な言語運用の分析から発見を捉える」プロセスだと言えます.

フィールドスタディズの本質を体感してもらう機会

今回の調査活動には,フィールド科学の領域に興味を持っている1年次の学生も参加しました.1年次の段階では,まだ学位プログラムや分野は決まっていません.もちろん,学部の入門講義を受講しながら,複数の分野を知る機会はあります.ただ,オムニバス形式の講義科目において,各分野1回90分では,専門分野の学修・研究の実際を十分に伝えきれないことがあります.特に,実験や実地調査を伴う分野は,講義室での学修に限定されません.今回の調査研究のように,当該分野に興味がある学生が気軽に研究に参加できる機会は,これから所属分野を選択する学生にとって有意義であります.

フィールドスタディズの実際に触れるのは,大学に入学してから初めて体験する学生も少なくありません.現行の学習指導要領では,高等学校の地歴公民科「地理総合」は必修科目に位置づけられています.この科目の中には,「生活圏の調査と地域の展望」という単元がありますが,履修経験のある学生によると,実際に調査を行わなかったケースが多いです.新カリキュラムの施行直後のこともあり,また,コロナ禍の影響も考えられるでしょう.いずれにせよ,1年次の学生が専門分野の諸相を知ることができるよう,あらゆる機会を設けることが重要になります.

学生側からもアクションを起こすことができます.特に1年次の学生さんには,各分野が提供する様々なイベントに顔を出してみてください.興味を持っている分野があるならば,その専門家(=教員)のもとを訪問して学修・研究相談をしてみることを推奨します.もしかすると実習に参加できたり推奨図書を教えてもらえたりするかもしれません.新潟大学の授業は全学開講を基調としているので十分充実していますが,90分という既定時間で最大公約数的に提供される講義内容から一歩踏み込んだ世界を覗いてみることで,その分野に対する自己の適性を考えるきっかけにつながります.ひいては,分野選択のミスマッチも防ぐことができるでしょう.

所感:結論に代えて

今回の実践を通して,人文科学における異分野連携のアクティビティは教育的側面に多少なりとも効果をもたらすと考えます.私は理論的研究を行っているので,外に出て学問をすることは滅多にありませんでした.新潟に在住して長らく経ちますが,他分野の教員・学生と対話することで新潟の歴史・自然・言葉などへの理解が広がっている気がしています.これこそ,筆者が2025年3月に述べた「授業外で人文学の学びがつながると面白い」と思える所以だと思います.このような学術活動が分野を問わず普及されることを願いつつ,学生の様子や教育・研究のアウトリーチに今後も尽力していく所存であります.

謝辞

現地調査は土地管理者の許可を得て実施されました.フィールド研究を遂行するために便宜を図っていただいた新潟市に心からお礼申し上げます.

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